世界の大舞台へと羽ばたいていった卓球台。
最高峰のプレイヤーを魅了した曲線美の原点は、
幼少時に祖父が作ってくれた“虫かご”だった。

【プロフィール】三浦 慎(みうら しん)

1940年に広葉樹材専門業社として創業した松田木材店が卓球台の販売会社として1962年に現在の株式会社三英の前身となる有限会社三英商会を設立し遊器具製造事業、公園施設事業を展開。1991年に世界卓球選手権大会公式用具スポンサーに認定された事を皮切りに卓球台の製造部門を強化、2016年リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック公式卓球台サプライヤーに選定された。

Q1 起業のきっかけは?

仕事を引き継いだのは父が65歳、私が40歳の時でした。以前から父は65歳になったら引退する意思を表明していたので、事業を継ぐという事を疑った事はなかったです。父の時代、最盛期の売上は30億に迫り、そこをピークに下降。当時の主力は公園関係の事業でした。元々材木屋でしたから、材木を使用して水平展開できる物を考えて、行き着いたのがフィールドアスレチックでした。しかし、バブルの崩壊とともに、役所でも公園関係の予算が一気に縮小されたのです。そんな中で私が会社を継ぐ事になり、当時の父は業界の中で重鎮という存在でしたから、私の中で父の代で会社を潰させる訳にはいかないといった想いがありました。

Q2 起業して一番苦労したことは?

会社を継ぐ直前は営業責任者としてのポジションにいましたが、どうしても売上の減少に歯止めがかけられませんでした。若さもあって、何をしても成果が出せず、苦しかった時期ですね。実は、当時は社内の雰囲気とか改めて考えた事も感じた事もなかったですね。会社全体としても、新しい方向に変わった方が良いとか、そんな雰囲気もなかったし、今考えたら疲弊していたのだと思います。

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Q3 経営者と従業員の
違いや魅力は?

祖父と父でも全く違うのですが、祖父は物を作る事に長けていて、物作りのアイデアがとても豊かな人でした。父はどちらかと言うと経営者然とした経営をしていたのではないかと思います。そうした意味では、私はニュートラルな感じかもしれないですね。物作りも好きですが、そこをベースにして、数字をきちんと踏まえて進んで行くタイプ。ただ、どちらかと言うと経営は苦手ですし、あまり好きではないですね。物を作る方が好きです。

❶グッドデザイン賞を受賞した曲線美を誇る卓球台「infinity」❷みさと公園(埼玉県三郷市)の大型木製遊具は三英製。子供達に人気の遊具です

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

自分なりに考えて物を作るというのは好きですが、単なるアートではなく“デザイン”なので、きちんとしたロジックがないと駄目だと思います。どこを突っ込まれても説明ができないと工業製品ではないと思いますし、工業製品であるからには、どこかできちんと認められるという事が絶対必要ですから。「認められる」という事は「売れる」という事で、「買って頂く=認められる」と同義だと思います。

Q5 御社の事業の魅力は?

お陰様で、リオオリンピックを機に卓球関係については、特に国内ではきちんと認知されるようになりましたし、海外でも少しずつ三英ブランドの認知度も上がり、あと10年とか15年の間には、次に繋いでいく事を見据えて、更にしっかりとした会社にしようという想いがあります。今まで色々な所でご厄介になりましたので、卓球を通して、或いは公園関係を通して、何かお役に立てる事がないかと常々思っています。あと、魅力と言って良いか分かりませんが、オリンピックで自社製品が使われるメーカーというのは、競技選手がオリンピックを目指す気持ちと一緒で、ひとつの頂点を極めるって事だと思いますね。

Q6 現在の事業ノウハウの基盤は
どこで培いましたか?

祖父や父の物作りに対する姿勢が基盤になっているのでしょうね。小学校低学年くらいの時に、夏休みにはよく祖父の家(工場)に遊びに行って、カブトムシを採りに行ったのですが、その際、祖父が虫カゴをあっと言う間に作ってくれたんです。まるで魔法の様に。また、自分も木に釘を打ったりして遊んでいたのですが、祖父も工場の職人さんも口を出さずに見守ってくれていました。そんな原体験から物作りの楽しさを知り、現在の仕事に繋がったのかもしれません。

Q7 地域とのつながり、意義は?

地域コミュニティ的な話ではないのですが、私達の仕事は材料に左右される部分が多く、卓球台の材料が北海道産の物がその当時はありましたから、北海道に工場を作った経緯があります。ただ、最近は輸入材が多くなってしまっていますね。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

まず、東京と近いという事でしょう。私の自宅がある上野の土地は、元々自宅兼仕事場という形で商売をしていたのですが、東京の材木屋自体がお店にすべての材料を置ける訳ではなかったんです。その点、千葉という場所は東京に物を供給する場所、地理的なメリットとある程度の広さが確保できる場所として、とても良いエリアだと思います。比較的大きなスペースが必要な会社にとっては、好条件が整っている場所だと思います。

Q9 これから起業を考えている方に
メッセージをお願いします。

ひとつ目は「王道を行く」。あるべき姿で、あるべき様に進んで行くという事ではないかと思います。ふたつ目は「創造的な活動をする」。「創造的」というのは、「前例とか規範がない」事はもちろんですが、「気持ちが前向きな事」、「誰かに認められる」という事だと思います。良い物でも、誰も買ってくれない、分かってくれないというのは工業製品ではなく、工業活動でもないと思います。我々がビジネスとして行うのは、「デザイン」であって「アート」ではないという事です。「アート」は自己表現。アートは認められようが、そうでなかろうが全然関係はありません。「デザイン」はひとつひとつに「何故こうであるのか」という用途や目的を相手に説明できないといけませんし、理解を得なければいけないのです。例えばドアノブですと、ドイツ製品は、握ると「下へ引っ張ろう」とか「こう押すのだな」という

好きな漢字は?

「 違 」
創造的な活動をし続ける事が私の信条。創造的な活動とは、①前例・規範が無い事②気持ちが前向きな事③いつかどこかで認められる事。人と違う事を恐れず、むしろ楽しんで人と違う活動をしたいという意味で「違」にしました。

影響を受けた本、おすすめの本は?

「成功の実現」中村 天風 著
扇風機も電気なしには動かない。人間も動くには「気」が必要。心の持ち方、思考のあり方をプラスに持てば、「気」を体内に取り入れることができ、生命の実相に迫ることができる。
いつも元気で、前向きに向かって行けば何とかなると教えられた一冊。

オンとオフの切り分け方は?

美術館で過ごす
連休はあまりないのですが、1日はごろごろして過ごして、もう1日は美術館へ行ったりしますね。美術館はどんなジャンルでも好きですね。クラフト系でも、写真でも。

千葉で注目している起業家、経営者は?

株式会社 アシックス
代表取締役会長CEO 尾山 基さん
(千葉の経営者ではないですが、)フランクで楽しい方ですが、仕事となると、劇的且つドライで、容赦なく決断してビジネス展開のスピードが凄く速い方ですね。