穏やかな表情の内側に秘められた、
「やると決めたらとことんやる」の精神。
数々の秀逸なデザインを世に送り出した“情熱起業家”。

【プロフィール】松本 有(まつもと たもつ)

東北工業大学を卒業後、習志野市の玩具開発会社に就職し、1984年に独立起業。キッチン・ベビー・ペット用品から医療機器・航空機関連など幅広くデザイン開発を行っている。1994年に正式採用され、全国の郵便局に約12万台以上配布された郵便バイクの集配用キャリーボックスの新型タイプはグッドデザイン賞を受賞。「コト」や「モノ」のデザイン活動で業務を拡大している。

Q1 起業のきっかけは?

教員一族の中で純粋培養された私は、教員か医者を志望していました。しかし高校3年の夏「ピニンファリーナ」という自動車デザイン関連の書籍と出会い、デザインという物に強い興味を抱くようになりました。「デザインの道に進む」と言い出すと、学校からも親からも「今ごろ何を言い出すんだ、とんでもない話だ」と言われました。しかし、なんとか説得し、今までやった事がないスケッチやデッサンを必死に勉強して、大学の工学部の意匠科(デザイン科)に合格する事ができました。入学して2年目、もう1冊、運命的な本に出会い公共交通に興味の幅を広げました。しかし、オイルショックの影響でデザイン関連の就職先が少なく、雑誌記事の中で知った「山川プロダクション」という習志野市にあった玩具の開発会社の門を叩き、社長に直談判してその場で入社を決めてしまいました。おもちゃ業界では有名なトミー(現:タカラトミー)の開発部長が作られた会社で、そこで私はモノ作りを基礎から学びました。その体験は色々な意味で「フォルムの原点」となっていますのでとても感謝しています。その後、色々なデザインに興味を持ち、経験を積んで、独立起業に至りました。

Q2 起業して一番苦労したことは?

営業のために電話をする事です。私は前職では電話応対や営業活動の経験がなかったので、当時は電話機の前で30分くらい「何を話せば良いのか」と考えてしまって。学生時代は行政や議員へ精力的に電話で交渉をしていましたが、この時は勝手が違いました。今では大学で教えたり、大勢の前で講演するようになりましたが、当時は口下手でコミュニケーションが苦手な事を本当に悩んでいました。

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Q3 経営者と従業員の
違いや魅力は?

両者とも仕事への情熱は同様であるべきだと思いますが、想いをすぐ行動に移せるのは経営者の方です。大変な事も多い分やりがいがあります。

❶世界中で愛用されているPOPコンテナのニューモデル2018年、アメリカのデザイン賞(IDEA)にてブロンズ賞受賞❷「モノ」のデザインだけでなく「コト」のデザインの代表例M I C E・I R 幕張プロジェクト進行中

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

「欲ばり」だからだと思います。積極的に探究するという心構えが大切です。私は「こうしたい」「知りたい」という欲ばりな欲求を満たすために、のめり込むタイプなので。そうなると、脳内にドーパミンが沢山出ますね(笑)。色々な物に興味を持ち、追究する気持ちは18歳の頃と変わっていません。また、沢山の人と出会うのが人生であり、そういったご縁があるという事が嬉しいのです。それが理由でしょうか。

Q5 御社の事業の魅力は?

今やデザインは経済と直結し、それに対する影響力が大きくなっています。デザインは広義では「設計」ですが、それだけでなく実際に手に触れた時の感触やコストなどの具体的な部分が大切で、工法やマーケット規模・売上・利益という部分も考慮しデザインするのが弊社のスタイルです。期間は長く、費用も他社より高くなる事がありますが、結果としてクライアントの製品は予想を超えた売り上げとなって喜ばれています。アイデアを実現するためには多くの時間が必要になりますが、その時間の分だけ製品が完成した時の喜びはひとしおです。思い描いていた物が実際に目の前に形として出来上がってきた時、その時の興奮や感動が、この事業の大きな魅力と言えるのではないでしょうか。

Q6 現在の事業ノウハウの基盤は
どこで培いましたか?

基盤は「大学」です。私は大学入学時には既に大手自動車メーカーでの車のデザインを志望し、セミナーでは企業の担当者の宿泊先まで押しかけて指導を受けたりしました。とても迷惑な学生だったと思います。「熱意」でしょうか。相手も私の熱意に折れて、結果として沢山の物事を教えて頂き、社会のあり方を学びました。現在、私は大学の講議で「デザイナーが豊かでないと社会も豊かにならない。そのために今努力しよう」と話します。デザインとは総合科学技術の表現で、大学はその学びを得る事ができる人生最後の時間。設備や人材も充実しているので、そこでいかに楽しく充実して過ごせるかが、卒業後の人生を左右すると思います。

Q7 地域とのつながり、意義は?

創業34年になりますが、地域との繋がりを持てたのは8年前くらいで、それまでは千葉の企業との関わりは、ほとんどありませんでした。しかし2008年に市川にあった事務所を海浜幕張のWBGに移してから、地元の経営者の方達と交流ができ、「ちばの未来」や「幕張新都心MICE・IR推進を考える会」に参加して、地域の為に活動するようになりました。また地域の子供達に向けたワークショップや絵本の読み聞かせの企画等、今では様々な形で関わっています。地域の皆さんと共に活動できるという事では、とても楽しく充実した時間を持つ事ができると感じています。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

千葉との縁は先述の「山川プロダクション」ですが、私はそこで行った事をベースに仕事をしています。また、私は、思い立ったら自分で色々な事をやりたい方なので、色々な意味でスペースが必要です。「どうして千葉で?」とよく言われますが、都内ではお金もかかるしスペースも限られます。人も温かく環境も良い。ぜひ千葉で起業して、一緒に頑張りましょう。

Q9 これから起業を考えている方に
メッセージをお願いします。

「楽しく挑戦」する事です。楽しんだ事は上手くいきます。眉間にシワを寄せて仕事をしても上手くいきません。ジムに行って汗を流しジャグジーとかでリラックスして、そういう時の方が良い解決策が浮かんだり、思わぬアイデアが生まれて来たりします。仕事以外の色々な体験が出力に繋がっているのではないでしょうか。肩の力を抜いて、ぜひ挑戦してみて下さい。

好きな漢字は?

「 志 」
書いてくださいって言われる時はこれです。もうすべてがこれです。

影響を受けた本、おすすめの本は?

「ピニンファリーナ」高島 鎮雄 著
私の人生を変えた本です。 「ストリーツ・フォー・ピープル」OECD(経済協力開発機構)著
この本のおかげで公共交通に興味を持ちました。

オンとオフの切り分け方は?

オフはないです(笑)。切り分けというか、基本的に色々楽しんでいます。大変な時も当然ありますが、楽しい時は切り替える必要もないのです。

千葉で注目している起業家、経営者は?

株式会社 ゲノムクリニック
代表取締役 曽根原 弘樹さん
株式会社 BAN-ZI
代表取締役 宮原 万治さん
どちらもチャレンジ精神が大好きです。