沼田 紀代美
沼田 紀代美

元幼稚園の先生がそろばん塾社長に
全国170教室、世界へも展開

1973年、現会長の石戸謙一氏が白井市に創業したそろばん教室が「株式会社イシド」の原点。80年代には業界全体が縮小に転じたものの、能力開発、社会教育、しつけを身につけるという新たな教育ツール“いしど式メソッド”を確立し、以降多くの保護者や生徒たちに支持されてきた。2000年には業界初のeラーニング「インターネットそろばん教室」を開始。近年はFC化を積極的に進め、全国に170教室という規模にまで成長を遂げた。

<プロフィール>沼田 紀代美

1969年、北海道出身。20代は幼稚園や障がい児施設に勤務し、結婚を機に専業主婦となり八千代市に転居。「石戸珠算学園」の折込チラシを見たことがきっかけで1999年に入社。複数の教室に勤務したのち、入社半年で佐倉市と千葉市緑区の教室長に就任。それと同時に「インターネットそろばん学校」設立の中心メンバーに抜擢される。その後、フランチャイズ事業などに携わり、常務取締役を経て2011年に代表取締役社長に就任。

 

Q1 後継のきっかけは?

 石戸会長(当時は社長)は、ずっと「60歳までに引退する」と宣言していました。入社半年ほどで教室長に抜擢され、「インターネットそろばん学校」の開発とプロモーションに携わるなど、与えられた課題をひとつひとつ地道にクリアしていくと、それが次第に認めらたという感じですね。会長の右腕として働くようになり、自然の流れで社長に任命された印象です。後から聞いた話ですが、「一番反抗的な社員だから」というのが私に承継させた理由だとか。私自身はイエスマンを自負していたんですけどね(笑)。

Q2 就任して一番苦労したことは?

 先代が、40年間大切に守り続けた事業を引き継ぐというのはプレッシャーでした。例えば珠算教室のFC展開は、先代が確立した教育システムを忠実に継承しつつ、より全国区に広げていくことが目標です。先代が定めた方向性を見失わないよう、かつブラッシュアップしながら多くの地域の方々に提供していきます。40年間続いたということは、つまり社会的な価値がありますからね…プレッシャーというより、「いしど」というブランドをいかに発展させていけるか?という責任ですね。

Q3 経営者と雇用される側の違いや魅力は?

 雇用されていると、オンとオフの線引きを知らないうちに作ってしまいます。逆に経営者は24時間が仕事……オンもオフもなく人生そのものが仕事です。例えば誰かと会うにしても、仕事の延長線と捉えています。
魅力といえば、私に共感してくれる仲間が大勢いることでしょうか。「いしど式メソッドで社会を変えていこう!」と本気で考えてくれるスタッフたちにすごく助けられていると実感しています。

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

 ひとつには、良き仲間がいてくれるからです。私と同じ方向を向いて走り続けてくれる彼らを裏切ることはできませんからね。
そしてもうひとつは、生徒さんや親御さんの存在です。今でも週に1回程は教室に立ちますが、自信を持てなかったり、ヤル気の出し方が分からない子たちがいしど式メソッドに出会い「できた!」「嬉しい!」「楽しい!」と、表情がどんどん変わっていく。それを見た親御さんたちも喜んでくださっている様子を目にすると、「今、我々がやっていることは世の中に必要なことなんだ」と。つまりは私の自信にも繋がりますから。

社員とのコミュニケーションも重要な社長業のひとつ。最も大切にしている時間です

Q5 御社の事業の魅力は?

 弊社のサイトに「いしどは、教育で世界を変える。武器はそろばん」というフレーズがあります。そろばんは、計算道具としては現代において必需品ではありません。そんな時代に能力開発・しつけ・心の教育という「いしど式メソッド」を提供することで新たな価値を創造し、子どもたちの学習意欲を高め、夢に向かってチャレンジする心を育むことに挑戦してきました。幼少期に「やればできる!」という体験の場を与えられる。それが弊社の取り組んでいる事業の最大の魅力であり、業界をけん引できる武器だと考えます。また、世界への展開として95年にグアテマラで開校し、今春には2校が開校しました。

Q6現在の事業ノウハウの基盤はどこで培いましたか?

 幼稚園教諭をやっていた経験です。幼稚園や障がい児施設で多くの子どもたちと、同じ目線で向き合ってきました。そこに弊社の教育理念が合致して今があります。あとは女性だからというのもあるでしょうね。この事業では、子どもたちの潜在能力を磨くという目的のほかに、お母様たちのニーズに応えるのも求められますから。私は女性だから、お母さんたちに共感してもらえる視点がありますよね。

Q7 地域とのつながり、意義は?

 そろばん塾って地元密着の教育施設ですよね。「読み・書き・そろばん」の寺子屋の時代からそうです。弊社は地域貢献にも目を向けていて、2011年には白井市に「白井そろばん博物館」を作り観光資源のひとつとして提供しています。また、市内の商店街の活性化を図るために年2回ほどお祭りを開催し、白井市特産の梨をPRしたりと。教室の運営って、地域の方々の理解がないと始まりません。お子さんを通わせたり、教室に通う子どもたちに目をかけていただいたりと。だから今度は、我々が白井市のお役に立ちたいという思いで始めました。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

それは断然「人」です! まわりの経営者の方々とお話すると、とにかく千葉の人たちはあったかいですね。私はまだ半人前の経営者ですから、何か分からないことがあればすぐに相談させてもらっています。そうすると、自分のネットワークや知識、スキルなどを惜しみなく提供してくれます。もちろん、経営者によってさまざまなネットワークがあるから、私が今必要としている部分を補うヒントをいただけて、私が成長できるきっかけを与えてくれます。ビジネス度外視の関係で気にかけてもらえるのって、本当にありがたいです。

Q9 これから起業を考えている方にメッセージをお願いします。

 起業とは、世の中で不足している部分を埋めていくことだと思います。「どんな商品・サービスで起業するか?」と考える際に、社会や人が何を必要としているかを考えることが重要で、それこそが企業の存在価値になります。これだけ事足りた現代社会で顕在化していない価値を作ることは不可欠だと思います。今あなたが考えているアイデアと社会が求める価値がマッチしていたら、そしてそれに賛同してくれる仲間と情熱があれば、明日にでも起業してください。

好きな漢字は?

より多くの人が幸せになること。人が成長できること。世の中に多くのワクワクが溢れること。こんな社会は「志」ある人々が集まることで実現できると思うから。

影響を受けた本、おすすめの本は?

1.『起業家』/藤田晋 著
最年少上場社長ともてはやされるも赤字が膨らむメディア事業。誰もが利益を生むと考えなかったアメブロのサービスを成功に導くまでの過程や苦悩、起業家としての情熱。新しい事業を創る苦しみ、孤独、葛藤とともに起業家の醍醐味など共感できます。
2.『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』/池田貴将 著
3.『ワークシフト』/ リンダ・グラットン 著

千葉で注目している起業家、経営者は?

「株式会社IBA旬菜cooking」 代表取締役の伊場優子さん。社会のニーズにマッチしたサービスを提供する、現代の経営者のあるべき姿だと思います。

オンとオフの切り分け方は?

代表になる前は年に1回の海外旅行でリフレッシュしていましたが、今は24時間社長業ですからオンとオフを切り替えるという意識がありません。

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