藪本 敦弘
藪本 敦弘

サラリーマンからMBAを取得し
病児保育分野に進出したパパ起業家

2011年、病児保育事業を行う目的で設立された株式会社マザープラネット。2012年から流山市、柏市にて『オハナ☆キッズケア』を運営し、初年度はわずか24人の会員が毎年ほぼ倍の伸びで事業が成長し、今では200人弱の会員が利用するまで事業が拡大。現在は市川市、浦安市ほかつくば市、越谷市といった県外からの利用者も増えている。また、保育園に特化した経営コンサルティング事業、育児情報誌の制作なども行っている。

<プロフィール>藪本 敦弘

1977年、福岡県出身。大学卒業後、株式会社ワンビシアーカイブズに入社。在職中にグロービス経営大学院へ入学しMBA取得を目指す。10年の勤務において法人営業・システム開発・新規事業立ち上げを経験後、事業立ち上げを視野に入れ株式会社ぐるなびに転職。ベンチャー企業における事業管理を経験し、在職中の2011年に内閣府からの助成金を得て株式会社マザープラネットを設立。2013年には「流山市 子ども・子育て会議」事業計画策定部会長に就任。ふたりの娘の父。

 

Q1 起業のきっかけは?

 大学院に通い始めた2008年頃から漠然と起業を考えるようになり、ぐるなびに転職したのも「ベンチャーの雰囲気を味わってみたい」という純粋な思いからでした。ぐるなび在職中に大学院の仲間とダメ元でビジネスプランコンテストに企画を提出してみたら、助成金をもらえることになってしまい。良いタイミングと思ったので起業を決意しました。
最初は流山、柏、松戸エリアに特化した子育て情報サイト事業を会社の軸に据えるつもりだったんです。子育てに関する情報が網羅されてすぐに調べられるポータルサイト的な。でも、そのサイトを作るために地域の育児支援団体やママさんたちと話をするうちに、病児保育で困っている方々が多いのが分かり、すぐさま方向転換を図りました。それが2012年1月で、4月1日には「オハナ☆キッズケア」の開設にこぎつけたんです。

Q2 起業して一番苦労したことは?

 一番苦労しているのは人材です。病児保育はいつ仕事が発生するか予測がつきづらいうえに、常時動けるスタッフを抱えておく必要があります。病児保育というものに対する思いを持っている方々に入社していただくのは苦労している部分です。最近はおかげさまで会員数・利用者数も増えてきて、サービス拡充・拠点拡大を支えるための人材確保で苦慮しています。

Q3 経営者と雇用される側の違いや魅力は?

 経営者の魅力は、仕事上のストレスがないこと。私はサラリーマンを10年以上やりましたが、会社の中にいると組織論理が働いたときにモヤモヤが溜まるものです。上層部や他部署からのプレッシャーもあったりと。起業しても、日々の細かな悩みはありますが、自分で決め、仕事を進め、責任を取るって案外ストレスには感じません。むしろ魅力ですね。

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

 今8歳の長女が1歳頃に大阪の枚方市という街に住んでいたのですが、娘が体調を崩しやすく、本当に病児保育にお世話になっていました。だから病児保育施設のありがたみは人一倍知っているつもりです。それに誤解を恐れずいうと、こうした子どもの病気って特にお母さんのキャリア形成にとって超えなければならない障壁のひとつになっているのも実体験として分かっています。この地域で困っているご両親の助けになってあげたい思いが強いというのが理由です。

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説明会は必ず私が担当し、病児保育というものに対する当社の考え方をシッカリお伝えしています

Q5 御社の事業の魅力は?

 社会的に非常に大きな意味を持つインフラを作っていると感じられる事です。一方で、私たちはこの地域に貢献し、感謝していただき、それを「お金」という対価でいただく事で会社を存続させています。そういう意味で、私たちは地域とともに生きるというスタンスが必要と考えます。うちの社是に「地得地還(ちとくちかん)」という言葉があります。地域に貢献する事でいただいたものを自社で使い切ってしまうのではなく、できるだけ地域に還元していくという意味です。ですので市民団体のみなさんへの協力や、地域イベントへの積極的な参加も大事や役割だと考えています。

Q6現在の事業ノウハウの基盤はどこで培いましたか?

 起業する際は、保育園を運営している方をビジネスパートナーに迎え、事業のスキームを構築しました。あとは病児保育をやっている方に話を聞いたり、小児科の看護師さんに話を聞いたりしましたね。投薬時の注意点や検温の仕方、感染症の防ぎ方とか。全国病児保育協議会からマニュアルを取り寄せ、自社のマニュアルを作りました。今でも日々起きた問題点とその改善点などをアップデートしています。
補助金に頼らない病児保育サービスですから、利用者の所得によってある程度は想定利用者を絞らざるを得なかったところが残念です。事業継続のために仕方のない判断ではあったものの、より多くの方に利用していただきたいので今後もチャレンジすべき部分です。

Q7 地域とのつながり、意義は?

 先ほどお話した地域イベントや市民団体の皆さんへの積極的な協力が私なりに考える地域貢献です。自分自身もそうでしたが、サラリーマンって地元に対する帰属意識があまりないですよね。起業した今は、この地域が好きで仕方ありません。だから住みよい街になってほしいという思いがあります。
個人的な気持ちを言えば、私の娘たちにも街を好きになってほしいんです。自分たちが育った街を、彼女たちも子育てに使ってもらいたい。それくらい地元を好きになってくれればと。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

地価・人件費といった事業開始時に収益を圧迫する固定費が都内に比べて抑えられるのは魅力ではないでしょうか。それと、千葉は人と人とのつながりが濃密というか、ネットワークがすぐに作りやすいと思います。うまくやれば存在感を出しやすいので、事業を拡大していく際にはメリットかなと思います。

Q9 これから起業を考えている方にメッセージをお願いします。

 起業をして2~3年くらいは自分に給料を払うのも相当難しいので、個人貯蓄でも親類からの援助でも、生活費の算段だけはしっかりと付けてからの起業おすすめします。あと、体感していることとして起業してから3年が勝負です。3年でキャッシュフローをプラスにできない事業は、一部特殊な事業を除いてその先何年やってもジリ貧だと思います。そのためには、起業前に3年後・5年後・10年後の会社像を具体的にイメージし、行動計画への落とし込み・見直しを繰り返していくしかないです。

好きな漢字は?

地域の「地」であり、人間の根幹を表す「地(じ)」でもあります。地域に貢献しながら自分自身の成長の場でもある流山でこれからも生きていきます。

影響を受けた本、おすすめの本は?

1.『経営学』/小倉昌男 著
ヤマト運輸「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親です。感銘を受けた言葉として「サービスが先、利益は後」がありますが、「利用者は何を本質的に必要としているか」という考えがブレそうなときに読み返しています。
2.『会社は毎日つぶれている』/西村英俊 著
3.『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』/松下幸之助 著

千葉で注目している起業家、経営者は?

「NPO法人ライズアップ」の代表理事、山中有紀さん。任意団体からNPO法人へ転換され、現在は東葛エリアの中で最大規模の学童運営団体に成長されています。NPOでありながら“団体継続”に必要な収支管理という経営視点を持っている方です。

オンとオフの切り分け方は?

あまりオン・オフを意識した事はないです。経営者の身として、常に頭のどこかで会社の事を考えてしまっているというか…妻にはたまに叱られますが。

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