大串 哲史
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直営40店、13年連続
2ケタ成長を実現した秘策とは

創業51年目を迎えた「ヘアーサロンオオクシ」を原点に、1982年株式会社化。98年から多店舗展開を開始し、カットやカラーリングなどをリーズナブルな価格で提供する「カットオンリークラブ」、全コースにヘッドスパを取り入れた「美禅」はじめ、「ヘアカラーファクトリー」「カットスタイルクラブ」「カット:ビースタイル」などの直営店を千葉県を中心に40店舗を展開。また、キャリア復帰を支援するトレーニングセンターの運営、独立支援事業などを手掛ける。

<プロフィール>大串 哲史

1968年、千葉市出身。東洋理容美容専門学校を卒業後、4年半の修業期間を経て父親が経営する現「オオクシ」に入社。早くからPOSシステムを導入し、顧客情報や従業員情報などを数値化しはじめる。従来の“勘と経験にたよる経営”から、データを基にした効率的な経営方式にシフトさせ、顧客の再来店率を飛躍的に伸ばす。97年に事業を承継してからは着実に成長をつづけ、千葉・東京・茨城に直営店40店舗を出店するまでに成長させた。

 

Q1 後継のきっかけは?

 29歳で父親から事業を承継し、店舗を拡大しながら今日に至ります。昨年には創業50年という節目を迎え、第二創業という新たな気持ちでさらなるサービス向上を図っている最中です。

Q2 就任して一番苦労したことは?

 専門学校を出て10年にも満たない一介の理容師でしたから、経営の知識はゼロ。お金のこと、人材のこと、売上を伸ばす術、すべてが分からない事だらけでした。 今考えると、そのときに某飲食チェーンを成功させていた経営者と出会ったことが、私の成長に大きく関わっています。悩みや苦労を洗いざらい話す私を、その方は2時間ずっと穏やかな表情で見てくれて。最終的には世の中に対する不満まで話す私に「ちょっと私も話していいかい?」と。「経営が思うようにいかないのは、君に力がないからだよ」と言われてしまいました。ガツンと思いきり殴られたようで、何も反論できませんでした。「世の中は、平等に正しく評価してくれる。君に力があれば成長できないはずがない」と。うまくいかないことを、結局は世間のせいにしていたんですよね。その日を境に考え方が変わりました。

Q3 経営者と雇用される側の違いや魅力は?

経営者の魅力…「キツイ」です。ただでさえ人生って大変ですよね。そこへ加えて、会社や従業員の生活を守るといった責任が伴うわけだから、なおさらキツイです。でもそれを「やりがい」と思わなくてはいけないと考えています。 それと私は、スタッフを〝雇用している〟と思っていません。全従業員はパートナーです。会議の内容や会計を全従業員と共有して、会社をさらに発展させるために何が必要かを一緒に考えてくれる仲間であり同志です。

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

 全従業員とその家族の生活を守っていくためです。そして、せっかく会社を経営するなら世の中に貢献したい、お手本とされる会社になりたいという願望が常にあります。大袈裟かも知れませんが、世界平和を願う事に近いかも。世界平和になったことがないから願い続けることに意味があると思っています。お手本とされる会社になる日が来るまで願い努力し続けたいと思います。

「フィロソフィー」と社内会議資料
20代の頃から出会ってきた経営者たちの言葉をまとめた「フィロソフィー」と社内会議資料

Q5 御社の事業の魅力は?

 お客様から年間3万通ほどのアンケートが寄せられます。先日も「病気で気持ちが塞ぎ込んでいたけど、カットしてもらったら前向きになれた」というお声をいただいて。純粋に嬉しいですよね。人と人とのつながりが薄くなりつつある時代に、理美容業界は100%対面商売の業種です。わずか1時間のコミュニケーションでお客様を元気にして差し上げられる、これからの理美容業はカウンセラー的な役割を担っていくと思います。 あと従業員の成長を感じるのも魅力です。弊社の従業員には40人ほど元経営者がいます。それぞれに積み上げてきた経験があり、当然ながら考え方も違う。でも少しずつ力を貸してくれるようになります。それがものすごく嬉しいです。

Q6現在の事業ノウハウの基盤はどこで培いましたか?

 この業界は、師匠に認められることが評価という職人気質の世界です。しかし、私は若い頃ずっと疑問を感じていました。私が経営を任せられるようになったとき、学生時代にバイトしていたコンビニのPOSレジを思い出しました。曜日や時間帯ごとの売れ行きを集計し、天気予報まで考慮して仕入れを行う効率的かつ無駄のない管理システムです。店にPOSシステムを導入し、スタッフ別の売上などを計ると、まずスタッフを公平に評価する基準が生まれました。さらに再来店率が著しく低いことが判明したのです。今、全国の理美容店はコンビニの約5〜6倍にのぼる35万店あります。1店舗あたりの市場は非常に小さくなっているわけで、お客様にリピートしてもらわないと続きません。データを基に再来店率アップの施策を打ったことで、13年連続2桁成長を実現しています。お客様の意見とデータから、じつに多くの事を気づかせてもらい、それを現場に反映してきた結果です。

Q7 地域とのつながり、意義は?

 全40店の直営店で、年間に延べ79万人のお客様とつながっています。お客様の求めるものはひとりひとり違いますが、できるだけ満足度の高いサービスを心掛けています。少しでも上質な空間で、少しでも優れた技術者が対応することで、月1回の利用で元気になってもらえたら…それが私達にできる地域貢献と捉えています。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

年間を通じて天候に恵まれてる場所であること。それと、海に面している千葉は、昔からいろいろな交流がさかんで異文化が適度に混ざり合った街です。新しい文化を受け入れる人柄と風土があるからでしょう。最近は千葉に1号店を出店する起業が増えていると聞きます。

Q9 これから起業を考えている方にメッセージをお願いします。

 会社を興す目的、つまり何をしたいかを明確にすることが大切です。私はこれでいく!という強い志がないと続きません。そうして起業したら、「自分だけ儲けよう」ではだめ。会社の売上・利益を明らかにして、会社を伸ばしながら従業員にもちゃんと還元しないと、これからは誰もついてきてくれないと思います。自分だけ「お金儲けしたい」ではなく「○○がしたい。だから私に協力してほしい!」という強い思いがこれからの経営者に求められる資質です。

好きな漢字は?

着物の柄、茶道、華道など、日本人には特有の美意識があります。複数の選択肢がある中で経営判断する際は、「正しくて美しい」と思える方を選ぶようにしています。

影響を受けた本、おすすめの本は?

1.『「原因」と「結果」の法則』/ジェームズ・アレン著 悩んでいる時にこの本と出合いました。考え方の原点です。今でも迷ったときは必ず読みますし、新入社員にもこの本を手渡しています。 2.『生き方 人間として一番大切なこと』/稲盛和夫著 商売人、経営者としての判断基準はこの本から教わりました。 3.『商売心得帳』/松下幸之助著 20代前半、修業時代に腱鞘炎になり現場に出られないときに買った本で、私のその後の人生を決定づけた本です。今でも迷ったときに読み返している“原点回帰の書”ですね。

千葉で注目している起業家、経営者は?

「トーネツ株式会社」の半田実社長です。業務内容は空調関係。同業者を巻き込みネットワーク、サービス拡大、24時間対応の仕組みを提供。これらに取り組む姿勢、情熱、行動力が素晴らしい!

オンとオフの切り分け方は?

京都の比叡山を筆頭に、全国の寺社仏閣をまわります。千葉県内のおすすめは市原の養老渓谷にある「立国寺」。トンネルを抜けて境内に入ると、まるで『千と千尋の神隠し』みたいな雰囲気のある素晴らしいスポットです。

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