本当に困っている人達のための仕組みづくりに奔走。
高度な在宅サービスを可能にしたその事業は、
「優しい人」を自称する銀行員の想いから始まった。

【プロフィール】依田 和孝(よだ かずたか)

都市銀行を退職して平成23年に法人を設立、JR稲毛駅前に稲毛駅前訪問看護ステーションを開設した事を皮切りに「あなたの大切な人、ひとりひとりにHEARTFUL CARE」を信条として居宅介護支援事業・訪問看護・訪問介護など、幅広い介護福祉サービスを展開。2019年には千葉県第1号となる医療的ケア児の受け入れが可能な保育園を開設予定。

Q1 起業のきっかけは?

私は元々都市銀行の行員でした。ちょうど景気が悪い時期で、担当業務の7割は不良債権の回収という後ろ向きな業務だったんです。ある日、医療機関に対する融資を担当している中で、増えていく高齢者に対して、国はコストのかかる「療養型」の高齢者医療への予算を削っていく方針だと知りました。その時、私はふと「これから、療養が必要な高齢者はどうなってしまうのだろうか」と思ったんです。「これからは在宅サービスが必要になる」と直感で思いました。これだったら社会的使命もある、収益性もそちらにシフトしていっている、そんな中で起業を決意したんです。

Q2 起業して一番苦労したことは?

とにかく資金面。公的な金融機関なども含め、起業してすぐお金を貸してくれる所は無いので、銀行員時代に知り合った社長さんに融資のお願いをする事も多々ありました。それでもある時、自己資金がゼロになってしまい、またお願いしての繰り返しでした。すでに個人からの借入は全額返済しましたが、そんな事の連続でした。また、この事業も営業しないとお客さんを取れない。他の施設で引き受けを断られた方を受け入れて実績を積み重ねていく中で、他の入所者様をご紹介頂けるようになりました。

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Q3 経営者と従業員の
違いや魅力は?

サラリーマン時代は、上司に言われた事をやっていれば良いのである意味楽ですが、経営者はその理念によって会社全体が劇的に変化する所が魅力だと感じています。現在当社は8年目ですが、5年目にようやく経営者としての自覚を持ち、経営学を勉強したり、研修を受けたり、様々な経営者の方々と話をする機会を通じて「志や経営理念を職員に伝えないと、みんな離職していくんだ」という事を学びました。現在、経営理念を打ち立てて1年ほど経ったのですが、徐々に職員達に伝わり始め、少しずつ各事業所間の共通認識になった気がします。

❶本部でもある看護小規模多機能型居宅介護施設は千葉市でも数少ない施設❷メインである訪問看護は機能強化型訪問看護ステーションの指定を受けています

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

来春に、国内でも2か所しかない特別な機能を持つ保育園をオープン予定です。人工呼吸器を付けたお子様も受け入れ可能で、県内では当社が第1号で手がけ、自社の看護師・保育事業・障がい者事業をまとめた集大成的な事業となります。今までバラバラで動いてきたものが、「地域で困っている人達を助ける仕組みをつくる事が私達の仕事」という事を伝え始めたら、職員個々の意識が繋がり、事業としての一貫性が生まれました。「私達の力を合わせれば、困っている赤ちゃん達を預かれるのではないか」と。働く事に意味を見出せた事で、挑戦し続ける原動力が生まれたのだと思います。

Q5 御社の事業の魅力は?

企業理念が社内に浸透していった結果、職員達が連携していく事で、それぞれ見えなかったお互いの仕事の内容を理解するようになりました。今まで関係の無かった保育士や看護師、リハビリ職員がお互い積極的にコミュニケーションを図るようになり、各セクションがリンクし始めました。そのように私達が努力してきた結果、ご両親と子供の眩しい笑顔を拝見すると「地域に貢献しているんだな、無駄じゃなかったんだな」と実感できます。

Q6 現在の事業ノウハウの基盤は
どこで培いましたか?

創業以来、トライアル・アンド・エラーを繰り返してほぼ自力でやってきました。初めの1年間、他のステーションでご利用を断られた方を受け入れてきた実績で、ようやくご利用者様を紹介してもらえるようになりました。そうは言っても、基本的に新参者には対応の難しいご利用者様しか紹介してもらえない。依頼を断ってしまうと、そこから依頼は途絶えてしまいます。だから、頂いた仕事は決して断らない。経験者では断るような仕事もこなしていく中で、現在では千葉市内でうちのステーションは「断らないステーション」として有名になりました。

Q7 地域とのつながり、意義は?

事業規模も拡大して営業所も各地に広がっている事と、保育事業という業態の性質上、地域行事には積極的に参加させて頂いています。「地域包括ケアシステム」自体は地域で高齢者を見守るシステムとして国が推進している訳ですが、千葉市において現実的には旗振り役がいないのが現状です。ならば「うちがやりましょう!」という事で、地域行事に参加する中で、皆様に「駆け込み寺のような所として使って下さい」とアナウンスしています。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

銀行員時代、稲毛支店と千葉支店で勤務していた事と、一緒に創業した看護師が稲毛在住でしたから縁があるんです。また千葉市は、当時訪問看護ステーションが少なく、起業するなら今かなと思っていましたから。千葉という所はまだ地域住民が繋がっているので、非常に温かな気持ちで経営を進めていく事ができます。地元民が多いという事もあって地域行事も多いので、色々な繋がりをご紹介して頂ける所も、有難いと思っています。

Q9 これから起業を考えている方に
メッセージをお願いします。

悪い面から言うと、最初は資金繰りが大変な時期が絶対来ます。それに、メンタル面で折れそうになる場面も多い。そんな中、家族の存在は非常に重要です。起業は自分のやりたいようにやれます。ですが、自分のやりたい事と目的があやふやでは人が付いて来ません。それに動機がお金儲けだけでは、長続きしないと思います。当社の場合は、目的は「社会貢献」、その目標として「売上や利益」がある。売上が未達成だと、事業自体が上手くいかないし、ボランティアでは仕事はできないので、

好きな漢字は?

「 志 」
社会貢献という理念や信条を持ったチームで、それを現実化するには志がなくては成し得ないので。

影響を受けた本、おすすめの本は?

「成功哲学」ナポレオン・ヒル 著
読んで面白かったですね。「思考が現実化する」という事が。実践するかしないかだと思います。「失敗というものは無い」それは学びであって、今度は違うやり方をしたら、成功するかもしれない。「成功するまでやる」という所だと思います。

オンとオフの切り分け方は?

プライオリティ・マネジメント
「優先順位の決め方」です。「2割8割の法則」、8割は人に任せる、2割は自分で行うという。特に2割の中身は今後の経営に必要な事をやる。オフの時間をつくるという事を優先順位に入れる事も大切。これを心がける事で、ようやく子供と遊ぶ時間もできました。

千葉で注目している起業家、経営者は?

医療法人社団悠翔会 佐々木 淳さん
東京で在宅医療をされている方です。千葉を含む関東圏で11~12か所のクリニックを持っていて、地域包括ケアを何とか実現させたいっていう思いを強くお持ちになっています。我々もそれをお手本に、先輩の後を追いかけている感じです。