設計スキルを活かして
古民家の再生・保存・継承を実現
伝統を次代に繋ぐために奮起した女性建築士

株式会社人と古民家 代表取締役 牧野嶋 彩子

千葉県我孫子市で生まれ、八千代市で育つ。一級建築士、一級古民家鑑定士。大学では建築学を学び、卒業後、都内の設計事務所に入所。まちづくりのプロジェクトや開発等を含めた様々な仕事に8年間携わり、2003年、都内に設計事務所を設立。その後、東日本大震災をきっかけに「千葉のために役立ちたい」と千葉で起業を決意。2016年、設計業務と一棟貸しの古民家宿泊運営等の事業を中心とした株式会社人と古民家を設立。古民家の再生、保存、継承に情熱を注いでいる。また、一児の母として育児とキャリアを両立してきた経験から女性活用や育成に目を向けている。

Q1 起業のきっかけは?

 30歳で都内に設計事務所を設立後、東日本大震災をきっかけに、“生まれ育った千葉を盛り上げたい、千葉の役に立ちたい”という思いが芽生え、さらに経営を学ぶべく経営塾に入塾しました。そこで出会った仲間の応援もあり、設計スキルを活かして千葉での起業を決意しました。それまでは新築の設計監理の仕事をしてきましたが、千葉にはまだ多く残っている古民家の設計監理の仕事を大多喜町でさせていただく機会を得ました。その事が、日本の伝統技術で建てられた古民家を再生し、後世に継承していく事業をしたいと思うに至った経緯です。

Q2 一番苦労したことは?

 当社の事業は、大きく設計業務と古民家宿泊事業の2つがありますが、起業当初、設計事務所が自ら古民家の宿泊運営をする、というのは全く新しいビジネスモデルで、資金調達の面でご理解いただく事に苦労しました。ただ、タイミングよく取引先の銀行に「地方創世融資」という古民家への貸付制度がある事を知り、資金調達ではその融資を活用する事が出来ました。もう一つ苦労したのは、一棟貸しの宿泊の運営です。宿泊業のノウハウが全くなかったので、予約の取り方一つから、夜間にトラブルがあった場合の対応、セキュリティの問題、宿泊後の清掃等、その仕組みづくりが大変でした。

Q3 起業家・経営者と雇用される生き方の違いや魅力は何ですか?

 経営者は会社をどういう方向に導いて、従業員が生き生きと働けるようにするのか会社のビジョンや目的、方向性を示していく責任があると思います。方向性を示し続ける事は、私自身苦労している部分ではありますが、反対に経営者だからこそ出来る事でもあります。自分のやりたい事が出来るのは、やはり経営者としての面白さではないでしょうか。そして同時に、従業員の夢も叶えられる経営者でありたいですね。それが雇用される側と経営者との大きな違いだと思います。

Q4 その上で、挑戦しつづけられる理由は何ですか?

 設計デザイナーが私の原点ですから、デザイン力を活かして、地域創生や日本文化の再生に貢献出来る社会的意義がある事業をしている、というのが理由の一つです。また、スタッフが楽しく生き生きと働いている姿を見ると「私も頑張らなきゃ!」と思います。稲毛の設計事務所のスタッフは、子育てをしてもう一度社会復帰をしたい、という思いで働いている女性達です。さらに古民家の宿泊事業に携わるスタッフは、日本文化を守っていく事に賛同して働いている地元の方達です。スタッフと共に夢を共有しながら、会社経営していく事は私の原動力になっています。

【事業内容1】
千葉市稲毛区 T様邸 新築

【事業内容2】
大多喜の古民家宿泊施設「まるがやつ 萱ーKAYAー」

古民家を次代へ継承していく事は、
社会的意義のある事だと感じています。

Q5 現在実施されている事業の魅力は何ですか?

 一般的な住宅の設計業務では、女性が考える家作りという視点で、子育てや家事をしやすいという点を重視し、丁寧に1年以上の時間をかけながらオーダーメイドで家を作っています。住宅は人生の中での大きな買い物なので、きめ細やかなご提案を女性の目線で出来る事にやりがいを感じています。古民家宿泊事業では、古民家保存という目的を持って古民家の一棟貸しの宿運営をしています。日本の職人達の技術を集約させ100年以上前に建てられた古民家を新たに再生させる事は、設計事務所だからこそ出来る仕事です。そして再生された古民家を次世代へ継承していく事も社会的意義のある事だと感じています。

Q6 現在の事業のノウハウの基盤は何ですか?

 大学卒業後に就職した設計事務所では、都市計画に基づくまちづくりに携わってきました。一つの建物がその街に対してどう影響していくのかという事を20代の時に学んだ事が基盤になっています。事業を進める時も、古民家を活用した宿泊施設がその地域にどう影響していくか、という観点が基本になっていますね。もう一つは、経営塾で学んだ事です。創業前に、京セラ創業者の稲盛和夫さんが中小企業の経営者向けに設立した盛和塾で5年程学びました。“従業員の物心両面の幸せ”をもたらすことが、会社にとっていかに大切であり、経営者の使命である、という考え方に感銘を受け、当社設立時からの経営理念の一つになっています。

Q7 地域とのつながりはありますか?その意義は何ですか?

 繋がりが強いのは大多喜町での古民家宿泊事業ですね。スタッフは平均年齢70歳の地元のお爺ちゃんお婆ちゃんです。皆さんこの仕事に誇りを持って働いてくださっていますし、何より生きる力が強い(笑)。大きな台風が来た時は地域の皆さんが心配して施設を見に来てくれていますし、倒木してしまった時はすぐに軽トラで駆けつけてくれるなど、とても心強いです。故郷をつくるというコンセプトでスタートした事業ですが、宿泊されたお客様から「まるで実家に帰るみたいに対応してくれた事が凄く嬉しかった」と言っていただけると、地域との繋がりや地域の方と交流をしていく事はとても大切だなと思います。

Q8 ちば起業の魅力は何ですか?

 千葉には海や里山といった豊かな自然が残っています。当社運営の古民家がある大多喜町まで、東京湾アクアラインを渡れば都心からとても近くて皆さん驚きます。都心から1時間の距離に、日本人の故郷みたいな空気感やそこに住まう人、豊かな自然がある事はとても魅力的です。それに、千葉には“千葉時間”がありますよね(笑)。東京で働いていた頃は時間が早いというか急かされるというか、働いている環境も目まぐるしく変わっていました。千葉の方々との仕事では、締め切りやレスポンスのスピードに対して心に余裕を持てるので、東京で働いていた頃に比べると仕事のスピードも少しゆったりした感じがします。

Q9 これから起業を考えている方にメッセージをお願いします。

 起業するからには、「駄目なら仕方がない」という気持ちではなく、「必ず成功させるんだ」という強い意志を持つ事が大切です。お金儲けのためではなく、自分の持っている能力を社会に対してどう還元出来るのか、を追求する事も重要です。私の場合、デザイン力が社会に対してどう役に立ち、千葉のために何が出来るのかを考えて起業をしました。どのような社会貢献が出来るのか、事業の意義を考えた上で起業する事が大切だと思っています。是非そういう想いで起業して欲しいと思います。

Q10 今後の展望、ビジョンをお聞かせください。

 千葉には海や里山といった豊かな自然が残っています。当社運営の古民家がある大多喜町まで、東京湾アクアラインを渡れば都心からとても近くて皆さん驚きます。都心から1時間の距離に、日本人の故郷みたいな空気感やそこに住まう人、豊かな自然がある事はとても魅力的です。それに、千葉には“千葉時間”がありますよね(笑)。東京で働いていた頃は時間が早いというか急かされるというか、働いている環境も目まぐるしく変わっていました。千葉の方々との仕事では、締め切りやレスポンスのスピードに対して心に余裕を持てるので、東京で働いていた頃に比べると仕事のスピードも少しゆったりした感じがします。
会社名 株式会社人と古民家
電話番号 043-301-2777
現在の年商 3,500万円
従業員数 13名
業 種 旅行・宿泊・レジャー
事業概要 建築設計・監理、インテリアデザイン、古民家の設計監理、古民家宿泊事業
所在地 〒263-0043 千葉県千葉市稲毛区小仲台6-3-9 紅鶴荘1階
H P https://www.hitokomi.jp/

好きな漢字は?

「信」  社員、お客様、対外的にお付き合いする企業の方、人間同士の信頼関係がすべての事に通じていると思うので、人を信じ、自分も信じてもらえる人間になりたいと思っています。

影響を受けた本は?

生き方/稲盛和夫 著/経営者としての生き方やあり方を学びました。
陰翳礼讃/谷崎潤一郎 著/日本の美の感覚など古民家再生に通じる事を学びました
男と女の家/宮脇 檀 著/大学で建築を教えて頂いた教授の本で家づくりについて学びました。

オンとオフの切り替え方は?

旅行が好きですが、有名な建築や歴史的な建造物を見ると結局仕事のことを考えてしまいます。ゴルフをしている時は、それしか考えないので、オフはゴルフをしている時ですね(笑)。

千葉で注目している起業家、経営者は?

●株式会社オオクシ 代表取締役 大串 哲史さん
●小湊鐵道株式会社 取締役社長 石川 晋平さん
●株式会社FUSAコーポレーション 代表取締役 諏訪 寿一さん