大きなビジョンを想いに乗せて

「ちば起業家たち」のいま

昨年のビジネスプランコンペティション受賞者にインタビュー。
企業までの経緯や、受賞後の変化についてお聞きしました。

宇賀 俊之氏

農業の新たな発展を担う
農福商工連携ビジネスで
たくさんの笑顔を創造していく

「ちば起業家大賞(千葉県知事賞)」受賞

株式会社ニッポン食堂(現・株式会社OMOしろい) 代表取締役

宇賀 俊之

宇賀 俊之・冨美絵(うが としゆき・ふみえ)

1960年、白井市生まれ。東京農業大学を卒業後、船橋市民生協(現・ちばコープ)に入社。 88年より千葉市内にて農業に携わり、その後ステビア農法の研究員に。 2009年「ニッポン食堂」を創立後、千葉における農福事業をけん引してきた。

果樹生理の研究を通じ農業の面白さを知った

東京農業大学卒で、主に果樹生理の研究をしていた。 卒業後は船橋市民生協(現ちばコープ)に入社。 農大で培った知識を活かしながら、減薬農法の研究に没頭していった。
日本がバブル景気に沸いていた1987年に27歳で結婚。 相手は農家の長女で、迷う事なく婿に入ったという。 そこから約10年にわたり梨の栽培に心血を注ぐが、またもや新たな動きに着目する。 「農水省の友人から『最近ステビアがすごい』と。 南米原産の天然甘味料でも知られていますが、 当時は農作物に対するステビアの効果をとあるベンチャー企業が研究していて、 農業理論と実地経験のある人材を探していると聞きまして」。37歳で畑を離れ、 昼夜を問わずステビアの研究を重ねた。 その当時、宇賀氏は全国にある篤農家を訪れての意見交換や、東北大学、千葉大学などとも共同研究を行った。

低農薬野菜中心のメニューが揃うカフェ「OMOしろい」

妻の闘病を支えた4年間。
そして会社設立へ

2000年頃からは食育業界にも進出し、自身の農家ネットワークを首都圏のイベントにプロデュースしていた。 経験や人脈を総動員しながら農業の未来を良くするために突き進む日々。
しかし2003年、奥様の身体にガンが見つかった。余命は3カ月。生来の研究者魂に火が付き、 無農薬野菜と笑顔の二つを実践した。 「無農薬・無化学肥料の野菜には身体の機能を高める栄養素が沢山詰まっています。 そして笑う事。笑うと免疫力が上がったという事例を多く目にして」。 奥様が亡くなる2007年まで、宇賀氏の周りは笑顔に溢れていた。 そして2009年、質の高い野菜を普及させる事を目的にニッポン食堂を設立。 「僕にできる方法で生産者を支えながら日本の農業を変えていくんだ。そんな思いがありました」。 事業が好調に滑り出すと、今度は人材不足が問題となった。 そこで宇賀氏はハンディキャップを持つ若者を雇用し始めた。 「社会から隔絶された引きこもりや障がいを持つ若者たちが再び社会から求められ、 活躍できる場を提供したかったんです」。同社には現在20名ほどのスタッフが所属し、 自社農地の管理や野菜の収穫、仕入れ販売などを行っている。

ちば起業家大賞を獲得し、事業拡大への道が見えた

農業と福祉を両立させる、新たなジャンル“農福事業”を切り拓いた宇賀氏。 昨年開催された「ちば起業家ビジネスプランコンペティション」において、 その先進的な取り組みが評価され、ちば起業家大賞・県知事賞に選ばれた。 応募から宇賀氏を支えてきたのは2011年に再婚した富美絵さんだ。 受賞から8カ月が経ち、宇賀氏の周りでは様々な新しい出会いが始まっている。 「中小企業診断士や銀行から一定の評価を得られたのは素直に嬉しいですし、 事業を拡大するためのハードルがどんどん乗り越えられていっている実感があります。 そして何より、現場のスタッフたちの士気がとても上がり、笑顔が増えました」。 同社で働きたいという若者も徐々に増えてきた。ビジネスは人と人の繋がりと語る宇賀氏は、 社会的弱者と言われる若者たちを支援し、彼らの可能性が花開く瞬間が何より好きだと語る。 「僕はね、興味を持つと徹底的にのめり込む一途な性格なんです」と語る通り、 宇賀氏のこれまでの人生は農業と共にあり、関係する人々への感謝と愛情をひしひしと感じる。

昨年10月、約2000人の観衆を前にプレゼンを行う宇賀氏。

市川 正秀氏

液体燻製技術を活用した、
新しい千葉県産加工食品の創造

「ちば起業家優秀賞(千葉県知事賞)」 受賞
ITEC経営者メンタークラブ賞 受賞

株式会社リオ 代表取締役

市川 正秀

市川 正秀(いちかわ まさひで)

1970年4月22日生まれ。木更津市出身。 木更津高専機械工学科で学んだ知識を活かし実家が飲食店であることから料理の世界へ進む。 機械工学を用いて「液体を燻製にする方法及びその装置」で特許を取得。

独自の液体燻製技術を掲げ、初めてのプレゼン挑戦を決意!

ビンの蓋を開けると、ふわりと広がる燻製の香り。醤油の美味しさはそのままに香ばしさが重なる「燻製醤油」は、かずさスモークを代表する液体燻製調味料だ。料理にかけるだけで燻製料理が楽しめる手軽さと、新鮮な美味しさが評判を呼び、テレビや雑誌、ネットなどで注目を集めている。また、オリーブオイルを香り豊かな桜チップで燻製した「燻製オリーブオイル」も人気が高い。液体そのものを燻製する方法とその装置は、市川氏が物理化学的なロジックで自ら作り上げた。本人曰く「大成できない器用貧乏」からの脱却を目指して追求してきた技術。それまでの知識や経験の全てを注ぎ込んだ技術で、千葉県の地域資源である「しょうゆ」などの液体調味料を燻製し、県産食品の全く新しい燻製調理を開発する事で、特徴ある加工食品を生み出せたらという思いでビジコンへの参加を決めた。「受賞したから言う訳ではないですが、出るなら『ITEC経営者メンタークラブ賞』を穫りたいと思っていました。『成功者の陰にメンターあり』とよく言いますから。でも、当時はプレゼン経験ゼロ。たくさんの人の前で話す事も初めてでした。本当に思い切った挑戦でしたね」。

無添加、無着色、無香料のオリーブオイル、自家醸造の老舗「大高醤油」さんの醤油を香り豊かな桜チップで燻製。

悩み、考え、経験するほどに、
「通る」事業計画書へと進化。

慣れないパワーポイントに四苦八苦しながら、妻と二人三脚で事業計画書類の作成に挑んだ。メンターに響くような新規性、独創性を謳うように心がけ、自分のビジネスプランと向き合い、何度も書類を練り直す中で、次第に視界が晴れて行くのを感じたと言う。「最初の頃は、ビジョンや事業の本質がよく見えていませんでした。それが、主催者の皆さんと共に考え、悩み、経験するほどに、どんどん明確になっていきました」。特に印象深いのは、ファイナリスト選出後に行われた実行委員会とのビジネスプランのブラッシュアップだと言う。ビジコン参加後は、効果的な事業計画書が作れるようになり、融資面でも良い成果を得られるようになったそう。また、心情の変化もあった。セミナーなどに参加した際、必ず質疑応答に挙手するようになったのだ。「何でも良いから手を挙げ、マイクを使い、社名や事業を一言言う。それだけでも、誰かの頭には残って、商機が広がっていくと思うのです。『機会があるのにチャンスをものにしない人間にはなりたくない』そう思うようになったのは、ビジコンを経験したおかげですね」。

本気で挑みやり遂げた自信が、
新たな高みを目指す力に!

ファイナリストとして登壇した時の強烈なプレッシャーと緊張感。まさに清水の舞台から飛び降りるような気分だったが、それを乗り越えた今は、新たな高みを目指したくて仕方がないと言う。「『チャレンジをしてやり遂げる』という経験をしたことで自信になりました。どんな分野でも、挑戦した人にしか見えない景色がある。その景色が見たくて、また挑戦したくなる。この気持ちは、あの日登壇したファイナリスト全員が感じているんじゃないかな」。プレッシャーと戦う自分の姿を見て、今まで以上にスタッフからの厚い信頼を得られた市川氏。全てが良い方向に回り始める起爆剤になったそうだ。

食卓に美味しい香りを届け、
社会に豊かな食文化を
提供する。

現在は、北海道、千葉、大阪、九州、沖縄など、自社製品の販路が全国に拡大。更にオランダ、アメリカ、オーストラリアへの輸出も少量ながら進んでいる。着実にステップアップしている市川氏だが、夢はまだまだ尽きない。
「今後は、特殊なオイルを扱っている大手メーカーとコラボレーションして、最終的には、原料を受託販売する立場になりたいです。
私たちの目標は『世の中により豊かな食文化を提供すること』。実現には、自社製品の製造・販売だけではない取り組みが必要です。食卓に「美味しい香り」を提供することが、私たちの存在意義だと思っています。

【挑戦者へのメッセージ】

多くの人が夢や起業を語りますが、そのうち半分以上の人は実行しないように思えます。行動して必ず成功するとは限りませんが、成功する人間は必ず行動している。その一歩目をビジコンから踏み出すのも良いと思います。
少しでも早く行動すれば、必ず何か得られるものがあると僕は信じています。ビジコンで、ビジネス人生において大切な血となり肉となる経験をして、僕が見たものと同じ光景を感じながら、新たな自分を発見して欲しいと思っています。(市川 正秀)

小川 和人氏・小川 陽子氏・大屋 和彦氏

すべての高齢者が
幸せな老後を送るため
医・食・住3つの骨子から成る
新たな介護事業プラン

「ちば起業家優秀賞(千葉県知事賞)」 受賞

ODS株式会社

小川 和人・小川 陽子・大屋 和彦

小川 和人(おがわ かずと)医師・医学博士・整形外科専門医

小川 陽子(おがわ ようこ)医師

大屋 和彦(おおや かずひこ)建築家 株式会社archimetal.jp

小川和人さんへのインタビュー

月10万の収入でも、
快適に暮らせる場所を創出!

法務省に勤務する傍ら、医師としても活躍されている小川さん。ビジコンに参加するきっかけとなったのは、介護施設などを往診して回る中で、高齢者の独居世帯の多さを感じたことだった。国は在宅での生活を推進し、一度入院や施設に入ってしまうとマンパワーやスペースの問題で、在宅に戻ることは難しい。特に月10万円以下の収入しか無い場合は、受け皿となる場所が本当になかった。そこで、建築家の大屋さんと共に、低所得独居老人のための居住ユニットの開発を始めたという。

ビジネスプランと向き合い
続け、辿り着いた「核」。

目指したのは、ローコストかつ高い居住クオリティーの重量鉄骨造のジャンルに入る住居。そして日本の厳しい建築基準法にも対応し、増築、減築、移設もできる建築物だ。しかし前例のないゼロからの開発。しかも建築に関しては全くの素人。何もかもが手探りだったが、大屋さんと話し合い、知識を共有し、理想と現実を調整しながら進めていった。時間が限られたビジコンの舞台で、いかに効果的にアピールするかを考えるうちに、徐々に思考が洗練されていった。最終的に、「お年寄りの孤独死を無くしたい」というひとつの核に気付く事ができたという。

ビジコンは、起業家にとっての
効果的な窓口。

「千葉県知事賞を受賞した」という後ろ盾を得たことで、介護事業の関係者とも、もうひとつの勤務先である法務省でも、事業に関する話が前向きに進行するようになったという「賞状とトロフィーは、まるで水戸黄門の紋所のよう」と笑う。
「大屋さんとのタッグで出場し受賞できたこと。熱意のあるファイナリストたちと出会えたこと。そして何より、世間へアピールすることへの大切さを改めて知ったこと。ビジコンで得たものは多かったです。新しく創業しようという方が広くアピールできる効果的な窓口がビジコン。熱意ある人がアピールできる場があることは素晴らしいことですよね」。

大屋和彦さんへのインタビュー

ローコストの生活空間に、
建築用コンテナを提案!

「一人暮らしの高齢者が健康的に生活できる環境を提供する」。こういったサービス自体は、ビジコン以前から存在している。しかし多くは、最低でも月25万はかかり、低所得者層では手が届きにくい。そこで、建築用コンテナを使う事を提案したのが大屋さんだった。「建築用コンテナであれば、コストを抑えることができると思ったんです。背の高いコンテナを横倒しにして、さらに二つに割ると、一人が生活できるようなスペースが生まれます。法的基準をクリアするような特殊な開発をし、ローコストを実現したことで、月10万円程でも生活ができ、デイサービスも利用できる環境づくりができるようになりました」。

高齢者の独居問題の深刻さを
ビジコンで伝える。

ローコストの建物を開発する経験はあまりなかったという大屋さん。建築と医療・介護という2つの視点で考えなくてはならず、難しい調整も多かったと言う。それでも挑戦し続けたのは、社会の危機的な状況を世間に知らせたいという強い想いからだった。「独居老人が多いことは知っていましたが、どこか現実感が薄かったんです。それが、小川さんと話をする中で、この問題はさらに大変なことになっていくと感じるようになった。ビジコンで発表することで、世間は同じ方向へ動いていくはずだと思いました。だから受賞できた時は、社会的意味を持って受け入れられたと感じ、嬉しかったですね」。

課題のソリューションから、
建築という枠全体へ。

受賞を自分のサイトで紹介すると、共感してくれる仲間が増えた。問題に対するソリューションだけでなく、建築という枠全体への視野の広がりを感じたという。
今後のテーマは、「医師の使命、建築家の使命」という原点を忘れることなく、社会的な事業をビジネスとして成り立たせ、長く広く続けていくこと。特に置いていかれがちな弱者に対する、自分たちの専門範囲での方法論を明確に確立していくことだ。建築家としての夢もある。コンテナシステムを持って世界へ進出し、日本が作りあげてきた「ものづくりの精神」を守ること。ビジコンでの受賞から1年。決意を胸に、新たなステップを目指している。

【挑戦者へのメッセージ】

小川 和人氏からのメッセージ

熱意だけでは勝ち進めないのがビジネス。資金面・人材面で苦労することも多いですが、ビジコンなどに果敢に挑戦し、苦労を乗り越えながら、世の役に立つ良いことをしていってもらいたいです。
大事なのは、最初の時点できちんとしたビジネスプランを立てること。銀行などの力を借りて、きちんとした数字にしつつ、新しい事業をどんどん立ち上げていってもらえればと思いますね!

大屋 和彦氏からのメッセージ

夢を実現させようと同様に頑張っていらっしゃる方との出会い、また、それを行政の立場や民間の立場でもアクセラレートしようとされている方々に多く出会うことができ、勇気をいただけました。また、自分のビジネスプランを、聴衆がわかるような形にまでブラッシュアップできますから、それだけでも、ビジコンに参加する意義があると思います。夢を具体化、明確化させるひとつの力になりますので、頑張ってください!