アカデミアへの真摯な姿勢で、世界一の植物化学専門企業を目指す経営者。
株式会社常磐植物化学研究所 代表取締役社長 立﨑 仁(たつざき じん)
日本初の植物化学専門企業の4代目社長。大学卒業後、事業承継を視野に入れ、ノースカロライナ大学大学院薬学研究科を修了。平成19年、株式会社常磐植物化学研究所に入社。経営体質の一新をミッションに、平成25年代表取締役社長に就任。10年計画を立て、財務体質を健全化に導いた。主事業は、植物成分の機能を明らかにし、医薬品・化粧品・健康食品・食品添加物の分野に応用する研究開発と製造販売。令和元年には、自身も博士(薬科学)を取得。Q1 事業承継のきっかけは?
経営環境の悪化です。当社は、植物化学専門企業として、植物成分を抽出・精製し、機能を明らかにして医薬品や食品、化粧品に応用する研究開発と製造販売を行っています。実は、当事業は原料費、設備投資、開発研究費と、投資産業なんですね。その中で、設備投資と原料の買い付けを見誤ってしまった結果、経営環境の悪化に苦しんでいました。創業家として、経営責任は取っていかないといけない。経営体質の一新、それが私のミッションであり、代表取締役社長に就任したきっかけでした。Q2 一番苦労したことは?
承継当時、会社の価値は財務上「無価値」という状態でした。信用がないので、資金調達ができませんでした。その現実には打ちのめされましたね。そこで、まずは在庫となった原料をできるだけ資金に替え、自社工場には受託の仕事を呼び込み、日銭を稼ぎながら運転資金を確保しました。その後、毎年1億円くらいのペースで売り上げを伸ばし、返済も継続。資金調達ができるようになったのはここ2年くらいです。ゼロ以下の信用からスタートしているので、本当に大変でした。Q3 起業家・経営者と雇用される生き方の違いや魅力は何ですか?
自由と責任です。従業員は労働時間や労働内容に制約はありますが、会社の全責任を負う必要はないですよね。一方で、経営者は労働時間の拘束も、行動制限もなく自由です。ですが、社員が起こす問題、会社の周辺で起こる問題、すべてに対して責任を持たないといけない。経営者として責任の重さを強烈に感じています。その反面、魅力もあります。成長できる環境に身を置くことが最大の価値だと私は思っているので、特に厳しい10年間の社長経験は価値がありましたし、経営者になって良かったなと感じています。【事業内容1】
常磐植物化学研究所で製造している医薬品・化粧品・機能性食品(健康食品)・食品添加物用途の製品。身近な様々な商品に配合されている
【事業内容2】
千葉県佐倉市にある自社工場では、自社製品の製造だけでなく、お客様のオリジナル原料の受託・OEM製造にも対応可能
0から1を生み出せること。無価値のものに何万、何十万の価値を付けられるんです。
Q4 その上で、挑戦しつづけられる理由は何ですか?
会社の価値を信じていることです。近年は特定保健用食品や機能性表示食品といわれる“健康食品市場”が成熟し、ファイトケミカルの価値が高まっています。そんな状況の中で、当社の研究開発力・製造販売力を私は信じています。千葉県佐倉市のこの会社から日本や世界のヘルストレンドをつくることが十分にできる、と。今後、10年、20年先の未来に、さらに社会に役立つような製品・サービスを提供しようと意気込んでいます。Q5 現在実施されている事業の魅力は何ですか?
0から1を生み出せることです。当社の研究開発・技術開発・製造の過程を踏むと、無価値のものに何万、何十万の価値を付けられるんです。さらに、世の中に対して新しい機能を提案でき、そこに市場やトレンドが生まれる可能性が生じる。0から1の創造、そこが楽しいですね。また当社は、植物化学の専門家が十分にやりがいを感じられる研究開発の事業基盤があります。現在12名の博士も在籍しておりますが、同様に植物や植物化学に興味のある人材がライフワークとして働ける環境を提供できるのも魅力のひとつです。Q6 現在の事業のノウハウの基盤は何ですか?
当社の強みは研究開発力です。創業以来、蓄積された研究開発基盤があります。先述した0から1の創造がなぜ可能かというと、植物化学(ファイトケミカル)の研究者・技術者が一堂にここに集まっているからなんですね。また、祖父・父・私と三代にわたって薬学系出身でもあり、アカデミアへの尊敬や思慕が深いので、日本中の主要な大学や研究機関と繋がりがあることも強みです。ですので、私が直接リクルーティングを行い、当社の研究分野に強い関心を持ち、生業にしていきたい人、入社意欲が高い人、何より社長の熱量についてくる方を採用しています。Q7 地域とのつながりはありますか?その意義は何ですか?
社会に対する貢献意欲は非常に強く、設立趣意書にも「事業によって得られた利益は植物化学の発展に投じる」といった企業使命を常に掲げています。例えば、大学への寄付や共同研究、小学生や高校生を対象とした実験教室や、若手研究者の優れた発表に贈呈する「松尾仁賞」の創設といった取り組みがあります。また、佐倉ハーブ園の無料開放や、学生を対象としたハーブ園見学ツアーを行っています。ハーブに親しんでいただき、学びの機会を創出しています。その他、地域の美化活動や地域消防に積極的に参加しています。Q8 ちば起業の魅力は何ですか?
千葉は魅力だらけです。成田空港があって、東京にもアクセスがいいし、観光地もある。かずさDNA研究所等の研究機関や大学もあります。実は、千葉県の学力は全国でもトップレベルです。それに東京を視野に入れている人材も集まりやすい。千葉は教育環境も良く、都内にも出やすいことは魅力的です。もちろん当社も千葉の恩恵を受けていますね。海外のお客様が成田から約20分で当社に来ることができる。逆も然りで、海外にも行きやすい。これは大きなメリットです。Q9 これから起業を考えている方にメッセージをお願いします。
起業家は社会の利潤を生みます。起業家がいるから利益が生まれて価値が生まれていくので。もし具体的な成功イメージを持てるなら、天からインスピレーションをもらったと感謝し、是非挑戦してほしいです。ただ、その先には厳しい現実が待っています。これから挑戦される方にこの言葉を贈りたいです。「10年ひと区切りの必死の10年」。みんな途中で辞めちゃうんですよ。だけど、まずは10年を覚悟し、必死に10年間頑張れば誰でも成功します。ビジョンを描けるような皆さんには、是非諦めず起業してほしいと思います。好きな漢字は?
「縁」 当社の本質的な研究開発の価値は、大学の先生とのつながりの中で生まれていますし、植物化学研究に携わった先達の意思をつないでいくことが大事だなと。影響を受けた本は?
人生、報われる生き方/渡部昇一 著青年の大成/安岡正篤 著
いつまでも若々しく生きる/中村天風 著
オンとオフの切り替え方は?
オフとオフの切り替えは苦手ですが、唯一家族と過ごす時間はオフタイムですね。千葉で注目している起業家、経営者は?
白鳥製薬株式会社/代表取締役社長 白鳥悟嗣 氏岩渕薬品株式会社/代表取締役社長 岩渕琢磨 氏
ヤマサ醤油株式会社/代表取締役社長 石橋直幸 氏