「ローカル儲カル」!?
人口減少時代に、
市民の足を維持する意味とは
- 小湊鐵道株式会社
取締役社長 石川 晋平
(いしかわ しんぺい) 1972年千葉市生まれ。銀行勤務を経て、2005年に祖父が勤める小湊鐵道に入社。2009年に取締役社長に就任する。市原市の五井駅から夷隅郡大多喜町の上総中野駅までの39.1kmを走る小湊鉄道線のほか、バス、タクシーも営業する。ローカル鉄道では珍しい黒字経営を続けていることで有名。グループ企業ではゴルフ場運営も行なっており、ゴルフを健康産業と位置づけ、東京を中心に来客がある。貸切バスは1949年から営業を開始し、地元企業、学校などから利用されている。看板商品である赤トンボツアーでは、1泊2日の温泉旅行を中心とした企画旅行を催行し、リピーター客が多い。鉄道が敷かれる際には、地元の人々の小口の出資金のほか、安田財閥の創設者である安田善次郎氏に出資を依頼した経緯がある。
事業承継のきっかけは?
社会人になってから10年ほど、地元の銀行でお世話になりました。あるとき、祖父から「小湊に来い」と声をかけられたことがきっかけです。大変におっかないお祖父さんで、YesとかNoと言う選択肢は私にはなかったものですから(笑)、そのまま入社させてもらいました。周りの反応を気にするほどの余裕はなかったので、周囲からどう思われていたかは覚えていないのですが、自分としては、大変なことになったなと思っていましたね。それまで、何となく「自分が会社を継ぐことになるのかな」という雰囲気は感じてはいました。祖父の没後1年で取締役社長になりました。
事業承継で一番苦労した事や
ターニングポイントなどを
お聞かせください。
私が入社したときに、会社はすでに創立90年を迎えていました。社内には重鎮の方が大勢いらっしゃるような状況です。やはり、まずは会社に貢献して信用されなければと思い、新規事業をいくつかスタートさせました。たとえば、高速バスで新路線を開業してたくさんのお客様に利用されたり、観光鉄道ではトロッコ列車を導入して、これまでにいなかったようなお客様を呼び込んだりして、運よくある程度会社の業績をプラスにできたのですね。信用をいただけるまでは6〜8年ぐらいかかったのではないでしょうか。最初は社内で認められ、次にやっと地元の方に認められるようになったかなと思います。
起業家・経営者と雇用される生き方の
違いや魅力は何ですか?
基本的には立ち位置の問題ですので、違いはないと思っています。どちらの立場も共通ですが、魅力という点で言うと、自分が能動的に行動することで、社員(自分を含む)や業績、地域社会が変化することがある。それを見られるというのが大きな楽しみですね。一方で、悪い方向に変化することもありますので、それはそれとして責任を負わなければならないのですが。最近よく考えるのが、リレーにたとえるならアンカーになったらまずいということ。人間というのは必ず死を迎えますが、法人というのは永遠の命を得られる可能性があります。どうしたら次世代へバトンを渡せるのか、組織体をいつでもより良い状況に持っていかなければならないと思っています。
【小湊バス】
路線バス、高速バス、観光バスを運行しており自社ブランドツアー の「赤トンボツアー」を運行。名物ガイドで人気を博している。
【小湊鐵道】
主力車両キハ200を中心に通勤通学の足となっている。キハ200 は60年以上の歴史のある車両で趣がある。車両基地見学会など人気のイベントがある。
【房総里山トロッコ列車】
2015年運行開始以来、里山の案内人として活躍。
窓の無い展望車は自然を肌で感じられ、大人気の車両。
『省エネルギーでも
効率的な輸送をできるよう
DXを進めていかなければ
なりません』
ビジネスを通して、解決したい社会課題や
地域課題についてお聞かせください。
Co2排出等の環境問題では、例えば50人がマイカーで出勤するところを、公共交通では1台で運べるなど、有効なツールになります。医療費拡大の問題では、マイカーよりも公共交通を利用することにより、歩く歩数が自然と大幅に増え、予防医療に貢献するというデータもあります。鉄道・バス・タクシーと、モビリティのツールを一通り担っている会社としては、地域の方の移動ニーズをうまく捉えて、効率的に提供する必要があると思っています。これまでは「大量輸送」が基本でしたが、人口が減れば運ぶサイズも小さくなっていくはず。やはり、どのようにDX化をしていくかが課題になります。たとえば、AIを使って人の流れを予測し、最適な交通ルートを提供するといったことです。できるだけ省エネルギーで、最大の効果を上げられるような交通手段を、ビジネスとして実現できるようにしなければならない。地域の足である我々にとっては、深刻な問題です。一方で、効率化や利便性ばかりを追求してきたことに対する反省もあります。養老渓谷駅では、アスファルトを剥がして緑豊かな駅前に戻す「逆開発」という取組みを進めています。もっと緑を増やし、安全に休める、人がホッとできる場にしたいですね。
あなたが考えるこれからの世の中や
目指す
社会について
ビジョンをお聞かせください。
これはやや漠然としているのですが、社会課題や地域課題に対して一つの会社ができることというのは、本当に些細なことだと思うのです。これからは、課題をいろんな会社が共有していく時代が来ると思うし、会社の中にいるか外にいるかはあまり関係なくなっていくのではないでしょうか。いろいろな人の知恵と行動が噛み合えば、様々な社会課題を解決できるはず。知恵を結集して地域生活の利便性や豊かさに貢献できればと思っています。我が社としては、地域の方の良い足となれるよう、バス路線の改編も行っています。効率的な路線やバス停の位置などはバスの運転手のほうが知っていますから、よく意見を聞きます。
千葉で経営する魅力や
千葉への想いについてお聞かせください。
77万年前の地層である『チバニアン』ってありますね。茨城大学の岡田誠教授に何度かお会いする機会を得て、いろいろ教えていただきました。77万年前の地層というのはとても若い大地で、普通だったら同世代の地層というのはまだ海の中なのに、地上でこの地層が見られるのが珍しい。そして若い大地というのは、上から押し潰されていないから柔らかいそうなのです。房総半島というのは、世界でも稀に見る、若くて柔らかい大地ということです。我々はそういう土壌で育っているので、若く柔軟であるべきだし、千葉の良さを活かせる暮らしというのを、みんなで作らなければと思っています。
地域とのつながりや連携等はありますか?
また、その意義についてお聞かせください。
トロッコ列車が走る中心部に牛久という街がありますが、我が社の社員と、牛久の商店街50人ぐらいの方がLINEでつながっています。トロッコ列車の週末の予約人数がわかると、そのLINEに「土曜は1号車○人です。2号車は○人です」と社員がメッセージを送るのですね。そうすると、商店街の和菓子屋や肉屋の旦那が、だいたいこれぐらい売れるだろうという数の商品を用意しておく。そして当日、駅弁売りのような格好をして、「出張商店街」ということで売りに行くと、それは良く売れるのです。このライブ感がきっとお客様にとっては魅力なのだと思いますよ。
これから事業承継を考えている方、
事業承継をして間もない経営者へ
メッセージをお願いします。
シンプルに一言だけ。「元気があれば何でもできる」です。プロレス世代なのでプロレスファンなのですが、先日アントニオ猪木さんが亡くなられましたよね。YouTubeで生前の映像をよく見ているのですが、「元気ですか!元気があれば何でもデキル!」と本当にそうだなぁと感じます。今年の春ですが、新型コロナウイルスで2年間大きくご利用が落ち込み、いよいよトロッコ列車にもっと乗ってもらおうと言って、年間乗車5万人という目標を打ち立てました。そこで、例の牛久の商店街の方たちと決起会をして、盛り上がりました。キャッチフレーズは「ローカル儲カル」(笑)。コロナ禍などいろいろな逆風がありましたが、元気があればどうにかなります。
- 会社名
- 小湊鐵道株式会社
- 電話番号
- 0436-21-3133
- 現在の資本金
- 2億250万円
- 現在の年商
- 45億6,300万円(2021年度)
- 従業員数
- 576人
(嘱託、出向含む)
- 業 種
- 運輸
- 事業概要
- 鉄道事業、乗合バス、観光バス、
タクシー、ゴルフ場運営
(グループ含む)
- 所在地
- 千葉県市原市五井中央東1-1-2
- 好きな漢字は?「徳」
- よく「徳を積む」という言い方をしますが、私は「自分の持ち場で自身の最善を尽くす」という解釈をしています。すると勢いがつくと思うのです。
- オンとオフの切り替え方は?
- 朝によく家の周りを散歩しています。毎日はできませんし、時間的にも30分から1時間程度ですが、とても気持ちよくて好きですね。
- 影響を受けた本は?
- 小湊鉄道のあけぼの(流紋)/遠山 あき 著
- 大学(四書五経)
- 未来のだるまちゃんへ/かこ さとし 著
- 社員の力で最高のチームをつくる
/ケン・ブランチャード 著
- 千葉で注目している起業家、経営者は?
- 株式会社オオクシ
代表取締役 大串 哲史さん - 石井食品株式会社
代表取締役社長執行役員 石井 智康さん
- 株式会社オオクシ
- 生年月日
- ………………
- 1972年8月15日
- 起業年
- …………………
- 1917年5月19日
- 社長就任年
- ……………
- 2009年