安全でおいしい食品づくりを通し、
数十年先まで持続可能な「食」のあり方に挑む
- 石井食品株式会社
代表取締役社長執行役員 石井 智康
(いしい ともやす) 大学卒業後にアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(現アクセンチュア株式会社)に入社し、エンジニアとして働く。2014年からはフリーランスを経験。2017年に祖父が創立した石井食品に入社し、2018年に代表取締役社長執行役員に就任。石井食品は1946年に佃煮の製造を開始した後、1970年に発売したチルドタイプの「チキンハンバーグ」、1974年に発売した「ミートボール」がヒット。現在はこれらのほか、おせちや正月料理、スープ、サラダなども手がける。おいしさ、安全、ヘルシーな食の提供を目指し、食品添加物不使用にいち早く着手。2002年には石井食品グループでISO9001:2000を認証取得。仕事と家庭を両立できる働き方の導入を進めている。
事業承継のきっかけは?
ずっと会社を継ぐつもりはありませんでした。自分の中で、“会社を継がないと食べられないのではないか”というコンプレックスがあったからですね。しかし、会社員とフリーランスを経験して、一人でもお金を稼げることが証明できた。そのときにコンプレックスが外れて、事業承継も一つの選択肢として考えられるようになったのです。それとともに食のビジネスに関心が生まれ、まだまだ新しい可能性があるなと考えました。起業するという選択肢もありましたが、食のビジネスは起業よりも工場を立ち上げるのが大変。しかしすごく近くに数十年の実績がある会社があるじゃないかと気づいて、入社を決めました。
事業承継で一番苦労した事や
ターニングポイントなどを
お聞かせください。
事業承継の場合は「捨てる」ことからスタートしなければならないことも多いです。今まで続けてきたものをやめなければならないときというのは、相手にも負担をかけるし、痛みを伴うもの。例えば採算が合っていない取引は、合理的に考えればやめるという結論になるのに、「ずっとお世話になっているから」「先方が困ってしまうのでは?」と、なあなあになってしまっているのでやめられない。それを先方と話し合いながら、考え直すよう持っていく必要があります。良いものは残しつつ、変えるべきものは変えるというのが私の仕事。FAXをなるべく廃止し、社員全員にメールアドレスを配布することもしました。
起業家・経営者と雇用される生き方の
違いや魅力は何ですか?
雇用される側は会社に価値を提供し、その対価として賃金をもらう。経営者は会社の外のお客様に価値を提供してお金をもらう。何を提供しているか、もらっている対価が適正かということをきちんと意識していれば、両者の間にそれほど大きな違いはないのではないでしょうか。ただ経営者の仕事として、工場、経理、営業、マーケティング、総務・人事に至るまで広く浅く会社全体を見なければいけません。何かの専門性を突き詰めたり、経験値を積んだりしたいというときは、雇用されるほうがいいと思います。一方で経営者は、問題点を解決して喜ばれたり、従業員の人生の節目に立ち会えたりする醍醐味があります。
【八千代工場】
1961年に真空包装煮豆の工場として建設。現在はミートボールやハンバーグを製造。
【ヴィリジアン外観】
(船橋本社1F「地域密着型コミュニティスペース」)
「食と人をつなぐコミュニティスペースを作りたい」そんな想いから生まれました。
【ヴィリジアン施設内】
無添加調理※で製造するミートボールや直売店でしか買えない限定 商品も販売しています。
※当社での製造過程においては食品添加物を使用しておりません。
『良いものを作る生産者には良い対価を。
生産者を支えるため、消費を見直さなければ』
ビジネスを通して、解決したい社会課題や
地域課題についてお聞かせください。
戦後、日本の食品業界が発展を遂げたおかげで、食品流通や食のサプライチェーンが効率的になりすぎていて、いろいろなひずみが生じてしまっているように思います。生産者からすると、大きさや見た目、収穫量で値段が決まってしまい、やりがいがない。良いものを作った人にはきちんとした対価を払う必要があります。食材の味って本来ならば地域差もあるでしょう。“こういう気候だから、味や形が違うんだよ”ということを楽しみながら子どもたちが学んでいかなくてはならないと思います。生産者の事情を踏まえて消費のあり方を変えていかないと、生産者を支えられないのではないでしょうか。地域農家と組んで、農家の生産物の特徴を活かした商品づくりを行なっています。たとえば主力商品であるハンバーグだと、ソースを季節ごとに変えています。11月には千葉県・市原市の姉崎大根、3月は神奈川県・三浦市のキャベツ、5月は千葉県・白子町の新玉ねぎと京都府・亀岡市の新玉ねぎなどですね。白子町と亀岡市の玉ねぎでは味も特徴も全く異なるので、それを活かしたソースを作り、「この地域の食材を使ったハンバーグが一番好きだな」と、その地域のファンを作ることを意識しています。栗ご飯も同様で、当社の商品は栗だけで7種類もあるのです。農家にとっても、他の地域の食材を食べることで「これもいいな」と刺激になると思います。
あなたが考えるこれからの世の中や
目指す
社会について
ビジョンをお聞かせください。
戦争やパンデミックを経験し、世の中が変わっていく過渡期にあると感じています。だから、今まで築き上げてきた人類の進歩には感謝しつつ、既存のものを現代の環境や状況に合わせて変えなければなりません。当社は「食の実験企業」だと自認しているのですが、次世代により良い食を残すためにいろいろな実験をしていきたい。たとえば、加工品も生鮮品のようにダイナミックプライシングで、いいものがたくさん採れたときは安くなり、そうでないときは高くなるような試みもしなければならないと思います。人間の体を維持する食を作る生産者の労働環境を、もっと変えなければと感じています。
千葉で経営する魅力や
千葉への想いについてお聞かせください。
祖父は茂原の出身です。船橋に引っ越して船橋で起業して、そこからはずっと船橋にいます。千葉って何でもありますよね。漁業もあれば酪農もあり、農業も盛んです。働く場所も遊ぶところもあり、国際空港もあります。でも、いろんな要素がバラバラで、つながっていないというのが非常にもったいない。逆を言えば、可能性はたくさんあるし、そのなかでビジネスを起こすというのはとても魅力的だと思います。私の仕事でいうと、食品業界での経営者同士のつながりというのはあるのですが、他の業界の経営者とはあまりない。異なる業界でビジネスをつなげて、イノベーションを起こしていく必要があると思います。
地域とのつながりや連携等はありますか?
また、その意義についてお聞かせください。
ここ4、5年は、地域生産者との連携を増やしています。生産者と深くつながりながら、新しいものを生み出すというのはとても意義のあることだと思っています。日本は東京と大阪にすべてのものが集中してしまっていて、他の地域が盛り上がらないのはあまりに不健全ではないでしょうか。日本の食の魅力は多様性にあって、千葉の食材はおいしいけれど、他の地域の食材もものすごく魅力がある。そこに誇りを持って、志高くチャレンジする生産者さんと発展していきたいですね。行政の役割も大きくて、良い生産者がいて、そこに後押しをしてくれる行政がいる地域と手を組めると、ものすごく盛り上がります。
これから事業承継を考えている方、
事業承継をして間もない経営者へ
メッセージをお願いします。
個人的な考えでいいので、「こういう世界を実現したい」「こういう社会を作りたいからこれを実現したい」という強い思いがスタートであってほしいと思います。起業であっても事業承継であっても、大変なことや壁にぶつかることは山ほどある。心が折れるような経験をすることもあるでしょう。そのときに自分の中で「これを実現したら絶対に世の中に喜んでもらえるはずだ」と思えるものがあることが大切です。そこにどう利益を出していくかというのは、仲間と一緒に試行錯誤していけばいいのだと思います。どうやったら儲かるかではなく、ビジネスを通して実現したいことを強く持ってほしいです。
- 会社名
- 石井食品株式会社
- 電話番号
- 047-435-0141
- 現在の資本金
- 9億1,960万円
- 現在の年商
- 88億3,147万円(2022年3月期)
- 従業員数
- 368名
(臨時、パートを除く
2022年3月31日時点)
- 業 種
- 食品メーカー、小売
- 事業概要
- 食品加工製造・販売
- 所在地
- 千葉県船橋市本町2-7-17
- 好きな漢字は?「晴」
- 娘の名前の一文字です。不透明な世の中で大変なこともたくさんあるけれど、気持ちが明るくなる晴れやかな空に向かって頑張りたいです。
- オンとオフの切り替え方は?
- 家事や子育てをしていると強制的にオフのスイッチが入ります。いすみ市在住ですが、会社と距離があるのも切り替えになっています。
- 影響を受けた本は?
- もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎 夏海 著
- プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか /P・F.ドラッカー 著
- 日本人とユダヤ人/イザヤ・ベンダサン 著
- 千葉で注目している起業家、経営者は?
- 小湊鐵道株式会社 代表取締役 石川 晋平さん
- 株式会社アグリスリー 代表取締役 實川 勝之さん
- 生年月日
- ………………
- 1981年6月20日
- 起業年
- …………………
- 1945年
- 社長就任年
- ……………
- 2018年