小野 薫
小野 薫

地元の生産者とひとつになって
房総の美味しい食を発信していく

山海の恵みにあふれる房総を拠点に、地元の野菜や水産品、加工品などをプロモーションする目的で設立された「FUSABUSA」。地場産の食材と味付けにこだわり、房総エリアに古くから伝わる食文化を発信している。南房総の契約養鶏場から取り寄せた新鮮な鶏卵を使った「たまちちぷりん」のネット販売も行うなど、房総食材のブランディングを精力的に行っている。

<プロフィール>小野 薫

1968年、鴨川市出身。都内の大学を卒業後、アパレル企業に入社。その後は食のコンサルティング会社に転職し、レストラン企業の宣伝を担当していた。外食ブーム全盛期であった1999年、食のPR会社を立ち上げる。フレンチ、和食、居酒屋、パティスリーなどの新規店舗や新規メニューのメディア展開企画、コーディネート、コンサルタント業務を2011年まで行う。2011年からは株式会社ふさぶさにて房総食材のPR兼飲食店を運営している。

 

Q1 起業のきっかけは?

 東京で食のPR会社を経営していたとき、〝地方の食を元気にしよう〟というテーマのイベントに携わっていました。日本各地の農業、水産、加工品がプロモーションに力を入れている様子を見ていて、私の生まれ育った房総のいいものを紹介したいと思ったのがきっかけです。房総の食材をネットで発信しようとこちらの生産者さんとお会いするうち、活動拠点を鴨川に移さないと、成し得ないと思い、夫の協力も得て決心しました。それが2010年の夏で、PR業務の整理をしながらこちらの準備も進め、2011年3月に株式会社ふさぶさを設立。同年7月に実店舗「里海食堂 FUSABUSA」をオープンさせました。

Q2 起業して一番苦労したことは?

 開業から慢性的な人不足ですね。私としては長期的に…ただ長くやってもらうのではなく、房総のいいものを発信していくという志を共有しながら働いてくれるスタッフを求めています。ここは食堂でもありながら、本来の目的は房総の食材の美味しさ、素晴らしさをプロモーションする場所です。その思いを共有してもらえるようなスタッフを集める情報発信に必要性を感じています。

Q3 経営者と雇用される側の違いや魅力は?

 経営者には自分の夢を形にするっていう醍醐味があると思います。夢を形にしながら、地域や社会に関わり、必要な存在になれるよう成長していくことが経営者の使命だと思っています。従業員は経済的に保障されたなかで伸び伸びと仕事ができる、またそういった環境を与えるのが経営者の使命だと思っています。

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

 未だ成し得ていない夢があるからです。4年前に起業した時に描いていたプランも、全て実現しているわけではありません。また、4年の間に得た気づきから、新たな夢もできました。夢を一つ一つ叶えていくことで、また新たな目標が生まれる。その積み重ねだと思います。  また、苦しい時、迷った時に支えてくれるスタッフや家族、周囲の方たちの期待や信頼に責任を持って応え続けたい。小さな事業でも関わりあう方が一人でも二人でもいれば、もう自分だけのものではありません。途中で投げ出さず、常に前を向き続けていきたいと思います。

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ご近所の太田和牧場の奥様は、公私ともに良き理解者。太田和牧場で生産さている、生乳やチーズはFUSABUSAのメニューとしても登場し、地元の魅力発信の相乗効果がうまれている。

Q5 御社の事業の魅力は?

 地域の人たち、生産者さんと一緒に「食」を通じて地元の素晴らしさを発信できること、に尽きるかと思います。  例えば、セグロイワシも、伝統的な郷土料理に留まらず、自家製のアンチョビを作って新たな価値を吹き込んだり、また、それを自分たちで作り、販売するだけではなく、お客様と一緒に作るワークショップを開催することで、地元の食材と実際に触れ、生産者さんの話を聞き、料理を作る。ただ、料理を作ってお召し上がりいただく食堂としてだけでなく、ワークショップや、イベント、新たな加工品やスイーツの商品開発等、あらゆる手段で、しかも地元、産地からダイレクトに房総の食の魅力を発信できるのがFUSABUSAの魅力であり、他には無い存在だと思っています。

Q6現在の事業ノウハウの基盤はどこで培いましたか?

 食のPRや料理に対するセンス・感性は前職で培ったものです。

Q7 地域とのつながり、意義は?

 地域の生産者さんと近い立ち位置でつながる事でしょうか。最初は東京を拠点にして房総の情報を発信すればいいと考えていましたが、生産者さんたちの状況を知るほどに、地理環境や経済的なリスクも請け負い、共有する覚悟を持ってやらないと、〝想い〟は表面的な活動になってしまいます。なので上辺だけの地域貢献ではなく、ここの人たちと会話を重ねながらアイデアを生み出していくのが生命線だと思っています。今うちにチーズやミルクを入れてくださっている「太田和牧場」さんもそうです。地域との関わりがうちのブランドを作り上げてくれています。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

東京のような巨大マーケットが近いのはメリットでしょうね。もっと地方では、その商圏だけに限られますが、アクアラインを使えば千葉市に行くより都内に出るほうが早いですからね。東京でのビジネス展開も視野に入れやすいから、夢が広げやすいですよね。私もいずれは都内で房総食材のアンテナショップをやろうと計画しています。

Q9 これから起業を考えている方にメッセージをお願いします。

 常にワクワクしながら、小さな夢を形にする喜びや醍醐味を味わってほしいです。小さな夢を積み重ねて大きく成長してください。現実的な話をしてしまうと、起業するにはかなりの覚悟が必要です。人、お金、地域との関係とか、自分の至らなさをまざまざと見せつけられる事が多いのも経営者だと思います。継続して人やお金、情報をやりくりしていける覚悟があって、もっと言えば良き仲間を持つことが大切です。同じ志を持った仲間がいれば、どんな困難もきっと乗り越えられますから。

好きな漢字は?

世の中すべての物の根幹にあるもの。“素”を大切にすることは、衣・食・住はもちろん人間関係、経済・環境問題すべてに通じることと考えています。

影響を受けた本、おすすめの本は?

1.『もの食う人びと』/辺見庸 著
2.『土を喰う日々』/水上勉 著
ニ書とも、「食べる」ことの本質=生きることを教えてくれる質実な本です。スタイリッシュでモダンな食の向こう側にも、このような食に対する揺らぎ無い価値観が軸となっていることが大事だと思います。
3.『手仕事の日本』/柳宗悦 著
4.『星の王子様』/サン=デグジュペリ 著

千葉で注目している起業家、経営者は?

「いすみ鉄道株式会社」鳥塚亮氏です。注目しているというよりも、尊敬しています。過疎地のローカル線に、オンリーワンの価値を見出し、創造性を持って新たな取り組みを次々とチャレンジしていく姿勢。地域に誇りを取り戻し、元気と魅力を創造する素晴らしい社長様だと思います。経営の根本に愛を感じます。

オンとオフの切り分け方は?

自宅に帰っても夫とは仕事の事ばかり話していますし、オンとオフの切り替えが苦手なタイプかもしれません。友人からは「仕事の事考えすぎ!」って怒られるくらいです。うちで飼っている犬と遊ぶときが唯一オフになる瞬間かもしれませんね。

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