農事組合法人和郷園 代表理事 木内 博一 Model01農事組合法人和郷園 代表理事 木内 博一 Model01

農業=食材製造業の
理念を原動力に
日本の農業に新たな価値を
見出してきた革新的経営者

野菜の価格と流通を安定させる株式会社和郷をはじめ、産直野菜を主力商品に置くスーパーマーケット「OTENTO」など、関連する8社全体で60億円の売り上げを誇る農事組合法人和郷園。産地と消費者をダイレクトにつなぐ狙いから、野菜の生産のみならず加工や冷凍なども自社施設で行っている。2013年には新鮮な野菜を用いたレストラン事業へも進出。アジア圏を中心とした海外事業も展開するほか、国内事業所の拡大も積極的に行っている。

【プロフィール】木内 博一(きうち ひろかず)

1967年、香取市出身。農家の長男として生まれ、農業者大学校で農業経営学を学ぶ。従来の考えを逆転させ、製造原価を厳しく管理した“利益を上げる”経営スタイルを実践。農業=製造業という考えから販売店との直接取引ルートを開拓し、農作物の受注生産を開始する。1996年には農家と販売店をつなぐ有限会社和郷を設立。続く1998年には、マーケットのニーズに寄り添った生産者組合法人「和郷園」を設立し、旧態依然とした農業経営の革命を起こしてきた。

Q1 起業のきっかけは?

農業者大学校で農業経営を学び、1989年に22歳で実家に戻りました。そこで農業を取り巻く環境に疑問を感じたのがきっかけです。今日市場に卸した大根が100円でスーパーに並び、それが明日には70円になり、明後日には50円になる。野菜を作るには種や肥料など諸々の原価がかかるのに、出荷して2日後には半値で販売されてしまうことが、あまりにも理不尽というか、理解できませんでした。農業は「食材製造業」なんです。古くからの習わしで注文もないのに製造していましたが、それは需要に対して供給が足りない時代のビジネスモデルです。そこで私は販売店のニーズを汲み取り、それに沿った製造をするという仕組みに変えたのです。作物ごとの製造原価を計算し、さらにスーパーとの直接取引をはじめた結果、原価を変えずに年商が800万円から1200万円に上がりました。そのうちに「もっといろんな野菜を仕入れたい」という声がかかり、1991年に仲間5人で産直野菜集団を作りました。それから5年して、現在の前身である農作物流通に特化した「有限会社和郷」の設立に至ります。

Q2 起業して一番苦労したことは?

市場を通さずに農作物を販売するのは非常識と考えられていた時代です。市場の場外まで野菜を運んで、そこから仲卸さんが各店舗に運ぶというシステムを構築したのですが、市場の周りでやっているわけですから、次第に既存の流通業界から圧力をかけられるようになり…。とは言っても外野の声が気にならないほど忙しかったですけどね。

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Q3 経営者と雇用される側の
違いや魅力は?

全く違うと思います。今の私のようにオーナー企業のトップという立場は、利益とは別に組織を存続させていく意識も必要です。そのために、従業員たちをどう統率していくかが大事になってきます。サラリーマン共同体のような企業は、目の前の結果を追求することが使命です。しっかりとした舵取りと危機管理が必要になってきます。

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

挑戦というよりは、目の前で起こるマーケットの動きに柔軟に対応してきただけです。対応力の高い体制をどうやって作るか。結局のところ、私が一番向き合っているのは人づくりですね。それに紐付いて、最近は世代交代、後継者づくりにも力を注いでいます。男というものは35歳からリーダーシップを取るようになり、40歳くらいからマネジメントに関わります。55歳になったら今度は若手をサポートする役にまわるくらいがいいんです。気が付けば私も49歳。あと6年のうちに後継者へと松明を渡し、自分の経験と知識で会社をバックアップしていきます。

Q5 御社の事業の魅力は?

農業は、継続的なニーズがある限り安定しています。だからこそ何世代にもわたって作り込んでいける事業です。農産物を作る際に欠かせない土・水・太陽のうち日本が誇れる資源は水です。海外を見れば、蒸溜殺菌されない水で野菜を作っている国もあります。日本の厳しい安全基準は世界的に評価をいただたいています。だから日本の農作物は諸外国からとても魅力があると言えるのです。

Q6 現在の事業ノウハウの基盤は
どこで培いましたか?

作って売り、ニーズを読んで戦略を立てていくのが農業です。丸の内で働くホワイトカラーたちが成功するのは情報収集能力があるからで、農業経営者も天候やマーケットの動向など、あらゆる情報をつかむ能力に長けていないと務まりません。私自身も今まで様々な業界の方たちと接点を持ってきました。工業やIT業界など農業とは全く関係のない業種の目線から農業の問題点を洗い出し、解決してきました。これからの時代を生き抜くには、農業従事者にも情報収集能力が必要になってきます。

Q7 地域とのつながり、意義は?

我々の事業はまさしく地域産業です。地域そのものが我々の会社と言ってもいいでしょう。関西圏での拠点の必要を感じて福井和郷を開設しました。今後は首都圏に直営施設を置きつつ東北や九州へも広げていくつもりです。タイを皮切りに、日本食とセットにした海外展開も積極的に行っていきます。そうして世界と繋がっていくのが私の希望でもあります。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

山があまりないという地形はやはり農業に向いていますね。首都圏へのアクセスも良いですから、新たなマーケットを容易に開拓できるのも大きなポイントです。

Q9 これから起業を考えている方に
メッセージをお願いします。

どんなに小さな事でも構わないですから、3回の成功体験を得てください。自分でマネジメントしていって手応えを体感する事が、経営者に必要な経験であり後の財産です。例えば隣の人がトマトを100個売っていたら、自分は200個を売るために知恵出しと工夫を繰り返す。3回の成功を経験したら、それが起業のタイミングです。そして、新しいものを創造するために既存のものを破壊する=イノベーション「創造的破壊」ですよね。マーケットが変われば柔軟に変えていくことが大事であり、環境やニーズの変化にあわせて、あるべき姿に対応していく。だから私の経営のメソッドは0.5から1.5を生み出すことです。感覚としては、0から1は10年かかるが、0.5からなら1なら2年で生み出すことができる。だから目の前にあるものの形、すなわち0.5から変えていくイメージです。これが大事だと考えます。

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好きな漢字は?

「 一 」
既存の物を破壊して新たな価値を創造する。そんなイノベーティブな発想を持ち続けています。0ではなく0.5から1を造り出す。それが和郷園の原点です。

影響を受けた本、おすすめの本は?

「老人と海」/アーネスト・ヘミングウェイ著
今まで読んだ中で一番影響を受けた本です。人間の一生はとても短く、その期間に得られる物や、人間の欲を象徴的に描いています。人生ってこんな物なんだと思うと、また明日から生きる気力が生まれます。

オンとオフの切り分け方は?

この2年間、オフの時間はグローバルビジネスのMBAを目指して大学院に通っていました。長年感覚でやってきた事を理論的かつ体系的に学んだ事で、後継者を選ぶ際の指標ができました。またお酒の席は好きですね。いい話出てくるので、議論するのも会話をするにもいいと感じます。

千葉で注目している起業家、経営者は?

人のまねをしないから、人の経営に興味がないんですよね…。