株式会社恋する豚研究所 代表取締役 飯田 大輔 Model08株式会社恋する豚研究所 代表取締役 飯田 大輔 Model08

障がい者雇用と
地域の再生を軸に
循環型社会を目指す
経営クリエイター

2012年の創業から豚肉加工品の開発や加工、販売、農産品の販売を行ってきた株式会社恋する豚研究所。ユニークな社名は、豚が恋をしてしまうほど生産者が愛情たっぷりに豚に接するという意味。市内にある在田農場で育てられた豚を使ったハムやソーセージなどの加工品を販売するとともに、施設内の食堂では地場の野菜と豚肉を組み合わせたランチメニューを提供している。

【プロフィール】飯田 大輔(いいだ だいすけ)

1978年、旭市出身。東京農業大学農学部に進学するが、母親が設立準備を進めていた社会福祉法人を承継し、2001年「豊和会(現・福祉楽団)」の創業メンバーに名を連ねる。介護現場での経験を経て2012年には食肉加工の開発、販売などを行う「株式会社恋する豚研究所」を設立し、代表取締役に就任。千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。福祉楽団常務理事。

Q1 起業のきっかけは?

「恋する豚研究所」は福祉楽団の中のプロジェクトとして発足しました、まずは社会福祉法人の設立経緯から。私はもともと農業に興味があって東京農大に進学したのですが、大学3年生の時に母親を病気で亡くします。母は生前、社会福祉法人の立ち上げを予定しており、設立申請の準備をしている最中でした。申請自体を取り下げる事もなかなか難しいということが分かり叔父である在田正則(在田農場代表)が理事長となり、私は現場の責任者を担うことになりました。経営に興味がなかったわけではないですが、あの時はやらざるをえなかったというのが本当の話です。
 福祉楽団が運営するのは、特別養護老人ホームやデイサービス施設など香取市からはじめて現在、成田や埼玉県にも広がり6拠点。福祉楽団の一員として活動していく中で、障がい者の雇用に興味を持ちました。全国には「作業所」と呼ばれる障がいのある人のための施設があり、パンやクッキーなどを製造したり、軽作業をしています。彼らの平均月給は月に1万円ほど。これでは到底自立などできません。彼らに10万円の月給を支払える仕事をつくりたいという思いが強くなり、2012年2月に社会福祉事業の一環として「恋する豚研究所」を私が設立します。

Q2 起業して一番苦労したことは?

商品を売る事自体が大変な世界です。決して安売りする事なく、いかに正当な価格で販売していくかが命題ですから。弊社に限らずどこの会社もそうでしょう。付加価値を付けてアピールするという手法をよく見ますが、そんな事をする必要はないと思っています。商品本来の価値を余す事なく伝えていければ、正当な価格で取り引きできるはずですから。弊社はその“内在する価値”の発信に力を入れています。

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Q3 経営者と雇用される側の
違いや魅力は?

日々「やめたい!」と「やってみるか!」の繰り返しです。「会社なんかやめてしまいたい!」と思ってしまうこともありますが、街を歩いていると「これは面白いな」と感じるものがたくさんあって、「これも商売にできるかも?」と考えてしまう。(笑)経営者とは、そんな風に振り幅の大きい生き物だと思います。

Q4 挑戦しつづけられる理由は?

最近は、林業に興味があって、具体的に取り組み始めています。本社の周辺にある山々は所有者の高齢化で手つかずになっています。そもそも林業でお金を稼ぐというのが難しくなっているため、後継者もいません。そこで、儲からなくても、地域にお金が回る仕組みを構築できれば地域の経済循環として成立する可能性があると考えました。私が着目しているのは「自伐型林業」と呼ばれる初期投資にあまり負担のかからない小規模な林業の形です。木を全部伐採するのではなく、適切な伐採を行い、残った木を太らせます。周辺の温浴施設などで薪ボイラーを導入してもらえれば間伐材を燃料材として販売できます。自伐型林業を始めるには3トンのユンボと軽トラック、チェーンソーがあればいいので、500万ほどあれば始められます。お金が回る仕組みがつくれれば、新たな雇用機会が生まれるし、何より風景がきれいになる。香取市で試験的に挑戦して、うまくいけば他の地域のモデルになると思います。国土の7割が山という国なのですから、山をやらない手はないと思っています。

Q5 御社の事業の魅力は?

個人的には、興味ある事を事業にしているのだから魅力的に感じます。経営者の視点で言うならば、社会で活躍できる人を育成できる事です。社員には「きちんと転職したときに社会で活躍できる人になれよ」と言い聞かせています。人材育成のために相当な予算を割いて、他社との人材交流や海外研修を積極的に行っています。

Q6 現在の事業ノウハウの基盤は
どこで培いましたか?

0から1を作るなんてありません。既に世の中にあるものの組み合わせをちょっと変えてみる。それが事業の基本スタイルです。

Q7 地域とのつながり、意義は?

私たちは、ただ地域にとって意味あることを大切にしています。福祉楽団が運営している6つの施設では様々な地域交流の試みを行っています。毎月「5」の付く日は「ごはんの日」。ひきこもりがちな地域の高齢者などに施設に来てもらい一緒にお昼ごはんを食べます。「0」の付く日は「買い物バスの日」。移動手段のない方々を近所のスーパーまで送迎しています。

Q8 千葉県で起業する魅力は?

「東京」に近いという事が大きなメリットです。営業にも行きやすいですし、何かクレームなどがあったときにも迅速に対応できます。「恋する豚研究所」のターゲット層は、東横線沿線に住む40代の女性です。こういう層がどういう消費行動をしているのか、マーケットがどのように変化しているのかなども、情報をいちはやくキャッチできます。そして、何より多くのクリエイターが東京にはいますので、そうした人たちとすぐに会える、つながることができるというのは千葉で仕事をする魅力だと思います。

Q9 これから起業を考えている方に
メッセージをお願いします。

自分の給料をきちんと確保する経営計画を立ててください。「自分の給料は利益が出てからでいいです」では絶対にだめ。しっかりしたコスト管理意識がないと、いい仕事がでません。

株式会社アース

好きな漢字は?

「豚」
ジョージ・オーウェルの「動物農場」という小説がありますが、人がやっていた農場を、豚がのっとっちゃうという物語です。豚っていろいろ面白いですよ。

影響を受けた本、おすすめの本は?

「クリエイティブ資本論」/リチャード・フロリダ著 「新しい市場の作り方」/三宅秀道著
「シャドウ・ワーク」/イヴァン・イリイチ著

「クリエイティブ資本論」で地理的な要件が重要になると知り、「新しい市場の作り方」でマーケットの創出とは新しい文化を作る事だと知りました。「シャドウ・ワーク」からは、現代人の働き方、生き方を変えていく必要があると強く感じました。

オンとオフの切り分け方は?

経営者にとってオンとオフの切り換えなど不可能です。街を歩いたり山に登ったり、好きなカメラをいじっていても、「あ、これ仕事に使える」って思っちゃいます。仕事がクリエイティブになればなるほど、オンとオフは切り換えできなくなりますよ。

千葉で注目している起業家、経営者は?

「銀木犀」というサービス付高齢者住宅を経営している株式会社シルバーウッドの下河原忠道さんに注目しています。いままでの高齢者住宅の概念にとらわれない空間づくり、建物の工法から自分で開発し、高齢者のターミナルケアまできちんと考えている、建設業界にも福祉業界にもいままでいなかったタイプの経営者です。