自らの経験から利用者の心に
寄り添うケアを追求
看護師の経験を活かし
訪問看護ビジネスへ
松戸市を拠点に千葉、東京で訪問看護・介護、高齢者住宅、デイサービスなど8施設を運営する「株式会社アース」。差別なく受け入れるというポリシーの下、重度の要介護者、難病患者、末期ガン患者といった、細やかな医療処置を必要とする利用者を多く受け入れているのも特徴だ。2012年にはALS(筋萎縮性側索硬化症)患者である舩後氏を副社長に迎え、高齢者や障がい者を見離す事のない社会の実現に向け、松戸市の地域医療をけん引している。
【プロフィール】佐塚 みさ子(さづか みさこ)
1961年、茨城県出身。看護師として茨城や都内の病院に勤務。37歳のときに夫を末期ガンで亡くした事がきっかけで自宅介護の道を意識し、ケアマネジャーの資格を取得する。老人ホームや訪問看護施設での実務や営業経験を重ね、2009年に株式会社アースを立ち上げる。現在は松戸市内を中心に、訪問看護施設や高齢者療養施設「サボテン」など8施設を経営するとともに、千葉県看護協会理事、松戸市訪問看護連絡協議会会長を務めている。
Q1 起業のきっかけは?
5年間のガン闘病の末に亡くなった主人のことが、訪問看護という道を考えたきっかけです。その後40歳で再婚し、全日制の看護学校に通い正看護師と大学入学資格検定※1、ケアマネジャーの資格を取得しました。それから知り合いの紹介で鎌ヶ谷の老人ホームに入り、そこでの末期の膵臓ガン患者さんとの出会いが転機でした。その方は他の施設で入居を断られ続け、ここが最後の頼みの綱。私たちは、15分おきに手足をさするなど看護の基本と言えるケアで寄り添い続けたところ、その方は最期までどこも痛がらずに亡くなりました。
その時、私の主人が闘病中に「身体が痛い」と言っていたのを思い出し、こうやって手を添えるだけで、痛みや苦しみから解放されることもあると気づいたんです。それが今の事業に影響を与えています。その後、市川で訪問看護施設の立ち上げをお手伝いする機会を経て、2009年に独立しました。
※1 平成17年より「高等学校卒業程度認定試験」
Q2 起業して一番苦労したことは?
いろんな事がありましたが、心を健全に保つために苦労と思わないようにしてきました。2009年9月に五香のマンションの一室で訪問看護事業を始めたのが弊社の原点です。かつて在籍していた鎌ヶ谷の老人ホームと提携できた事もあり、事業は1ヶ月目から黒字に。2人の従業員に給料を払う義務がありますからがむしゃらに働きました。翌年3月、船橋に「ヘルパーサボテン(現・ケアラサボテン)」を開設すると松戸と船橋を行き来するようになり、それこそ目の回るほどの忙しさでしたね。
Q3 経営者と雇用される側の
違いや魅力は?
生き方の違いはないと思います。私自身、看護師として働いていた時は経営者の気持ちが理解できずに反抗した経験もありますし、起業してから多くの事に気づいて反省しました。
この7年で学んだのは、従業員の資質を見極めて適材適所でどんどんやらせることが大切だという事。従業員ひとりひとりの良い所を見つけてあげるのが経営者の仕事だと思います。仕事を通して従業員が成長してくれた時、私にとってたまらなく嬉しい瞬間です。
Q4 挑戦しつづけられる理由は?
利用者様とそのご家族、そして職員が私の支えです。以前、ある女性からお手紙をいただきました。その方のご主人はうちの施設でお亡くなりになったんです。 お手紙には「誠実なケアをしてもらえたおかげで、亡くなった時の表情がとても良かった」とありました。そういった利用者様からのお声をいただくにつれ、やりがいを感じますよね。
Q5 御社の事業の魅力は?
末期ガンや難病患者など、他では受け入れが難しいとされる方々を支援できる事です。現在の医療現場では呼吸器が付いているだけでリスクが高く、危険な患者だと避けられます。呼吸器が外れたら死んでしまうから危険であるという理由です。 リスクヘッジという意味では、私にも理解できます。ですが一方で「危険だ」が蔓延し過ぎじゃないかとも感じます。身体に付けているものが他人よりちょっと多いだけ。健常者とのラインを引き過ぎだと思います。今後は重症児の訪問看護を検討していますが、在宅でご家族のサポートがあればうまくいくと信じています。
Q6 現在の事業ノウハウの基盤は
どこで培いましたか?
技術面では、看護学校とその後の病院勤務、40代になってから飛び込んだ介護や訪問看護での経験と知識がベースになっています。また、2010年3月にヘルパーステーションを船橋に開設したあたりから施設運営のノウハウも得ていきました。
Q7 地域とのつながり、意義は?
松戸市の訪問看護連絡協議会で会長を務めているので、定期的に会議や研修などを開いています。市内で訪問看護を行っている事業所や個人間の情報交換から、行政と連携した医療・福祉の成熟が目的です。また千葉県の看護協会にも入っていて、こちらでは千葉県全域の看護サービスの底上げを図っているところです。六高台にある「サボテン」では、食堂の空いている時間帯に体操教室を開催しています。そこでは、地域の方々と利用者様の交流も生まれていますから、まさに地域と一体になった介護が実現しているわけです。
Q8 千葉県で起業する魅力は?
鎌ヶ谷の老人ホームで始まり、市川、松戸と思えばずっと千葉でしたが、「ここでやるんだ!」と決めた場所で全力を尽くすのが私の考えです。様々な局面で私を助けてくれた方、導いてくれた方との出会いがありました。松戸市は福祉にとても熱心な街なので、この業界で起業するなら松戸をおすすめします。
Q9 これから起業を考えている方に
メッセージをお願いします。
経営者になったら、いつも笑顔でいてください。暗い顔をしている人には誰も寄り付かないし、魅力を感じないですから。笑顔でいると、必ず良い事が舞い込んできます。また、何でも完璧にこなせる経営者なんていません。自分の弱い部分を認めてあげて、頑張りすぎない事も肝心です。
好きな漢字は?
「和」
今年、舩後副社長とともに決めた経営スローガンです。人はひとりでは生きていけません。同僚や利用者様が楽しく過ごせるために大切な心です。
影響を受けた本、おすすめの本は?
「しあわせの王様」/舩後靖彦著
ALS患者の気持ちが凝縮されています。今健康な私たちもいずれは高齢になりますし、あるいは障がいを持って人の面倒になるかも知れません。医療業界、福祉業界に身を置いている方には是非読んでいただきたい一冊です。
オンとオフの切り分け方は?
若い頃から歌う事が趣味なんです。この1年は歌唱指導のレッスンを受け、発表会にも参加しています。オフと言えばそれくらいで、基本的には常にオン状態です。誰かと会うにしても、その方の考え方や話し方などが新しい気づきのきっかけになる事がありますから。
千葉で注目している起業家、経営者は?
15年ほど前から障がい児支援事業を行ってきた、社会福祉法人ぶるーむの副理事 高橋雅恵さんです。弊社でもいずれ0~6歳未就学児の小児デイサービス事業への進出を検討していて、施設見学やアドバイスをいただいています。